第1回ニューヨーク映画批評家協会賞

設立とその意義

ニューヨーク映画批評家協会賞は、当時のアメリカ映画界において、商業的な成功だけでなく芸術的な価値を重視した批評家たちの視点から優れた作品や映画人を顕彰するために創設されました。これは、ニューヨークを拠点とする映画批評家たちが集まり、独自の基準で年間最優秀作品を選出することを目指したものです。その栄えある第一回は、1935年に公開された映画作品を対象として開催されました。これは、同賞の長い歴史の礎を築く画期的な出来事であり、批評家による評価の重要性を広く知らしめる第一歩となりました。

開催概要

第1回ニューヨーク映画批評家協会賞は、1935年の映画作品の中から特に優れたものを表彰する目的で実施されました。協会の設立後初めての選考であり、その結果は翌年に公表されました。具体的には、受賞結果は1936年 1月2日に発表され、正式な贈賞式は同年3月2日に行われました。このタイムラインは、年末にその年の作品を評価し、年明けに結果を公表するという、その後の多くの映画賞で採用される形式の先駆けともなりました。

主要部門の受賞結果

作品賞・監督賞

最も栄誉ある作品賞には、ジョン・フォード監督による『男の敵』が選ばれました。この作品は、当時の批評家たちから高い評価を受け、社会的なテーマを扱いながらもエンターテイメント性も兼ね備えている点が特筆されました。そして、その手腕が高く評価され、監督賞も同じく『男の敵』を手がけたジョン・フォードが受賞しました。このことは、『男の敵』という作品が、単なる優れた映画であるだけでなく、それを生み出した監督のビジョンと技術が傑出していることを示しています。ジョン・フォードは後に西部劇を中心に数々の名作を生み出す巨匠となりますが、キャリア初期のこの受賞は、彼の才能が早くから認められていたことを証明しています。

主演男優賞

主演男優賞には、イギリス出身の演技派俳優チャールズ・ロートンが輝きました。特筆すべきは、彼が単一の作品ではなく、『戦艦バウンティ号の叛乱』と『人生は四十二から』という、全くタイプの異なる二つの作品における演技によって評価された点です。ロートンは、威圧的で力強い役から、内面の葛藤を抱える繊細な人物まで、幅広い役柄を見事に演じ分けることができる俳優でした。『戦艦バウンティ号の叛乱』では冷酷非情なウィリアム・ブライ艦長を演じ、その迫真の演技は高い評価を得ました。一方、『人生は四十二から』では異なるキャラクターを演じ、ここでも批評家を唸らせる演技を披露しました。この受賞は、彼の卓越した演技力と多才さへの正当な評価と言えるでしょう。

主演女優賞

主演女優賞は、「神秘の女王」と呼ばれた往年の大女優グレタ・ガルボが受賞しました。彼女がこの栄誉を得た対象作品は、レフ・トルストイの不朽の名作を映画化した『アンナ・カレニナ』です。ガルボは、貴族社会の中で許されない恋に落ち、悲劇的な運命をたどるヒロイン、アンナ・カレニナを演じました。その美貌と、表情や仕草だけで登場人物の複雑な感情を表現する能力は、当時の観客や批評家を魅了しました。この作品でのガルボの演技は特に絶賛され、サイレント時代からのスターであった彼女が、トーキー時代に入ってもなおその存在感を強く示していることを証明する結果となりました。

歴史的意義

第1回ニューヨーク映画批評家協会賞は、単にその年の優れた映画を表彰するイベントに留まらず、その後のアメリカ映画批評の方向性を示す重要な試みでした。独立した批評家集団が商業的な成功とは異なる基準で作品を選出するというこの取り組みは、後の多くの映画賞、特に批評家賞の設立に影響を与えたと考えられます。ここで選ばれた作品や映画人たちは、批評家の視点からの評価という新たな価値基準を確立し、後の映画史における正当な評価を確立する上で重要な役割を果たしました。この第一歩が、現在まで続くニューヨーク映画批評家協会賞の権威と伝統の礎を築いたと言えるでしょう。それは、映画を単なる娯楽としてだけでなく、芸術形式として真摯に評価しようとする批評家たちの情熱が生んだ、映画史において記念すべき出来事でした。

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