第1次グラッドストン内閣

第1次グラッドストン内閣：自由主義改革と外交の苦悩

1868年12月から1874年2月まで続いたイギリスの第1次グラッドストン内閣は、自由党党首ウィリアム・グラッドストンを首相とする自由主義改革の中心地でした。この内閣は、アイルランド問題への取り組みと自由主義改革、そして外交における苦戦という、対照的な側面を持っていました。

成立と自由主義改革の推進: 1868年11月の総選挙で、アイルランド問題への積極的な姿勢を掲げたグラッドストン率いる自由党が勝利を収めました。これを受け、保守党の第1次ディズレーリ内閣は総辞職し、グラッドストンは女王から組閣の大命を受けました。

グラッドストン内閣は、アイルランドにおける国教会廃止やアイルランド土地改革法の制定など、数々の自由主義改革を断行しました。アイルランド土地改革法は、小作農の強制立ち退きに対する補償を定めるものでしたが、その効果は限定的でした。

また、1870年初等教育法の制定により、小学校教育の普及が促進され、官界・軍における貴族優遇の抑制、秘密投票制度の導入、労働組合の権利拡大など、多岐にわたる改革を推進しました。これらの改革は、国民の政治参加拡大や社会平等の実現に大きく貢献しました。

しかし、これらの改革は必ずしも円滑に進んだわけではありませんでした。アイルランド大学改革法案の失敗は、自由党内部の分裂とグラッドストンの権威低下を招きました。

外交面での苦戦: 外交面では、グラッドストン内閣は苦戦を強いられました。プロイセンのビスマルク首相の後塵を拝し、普仏戦争の勃発を阻止できず、ドイツ統一という大きな地殻変動を目の当たりにしました。さらに、ロシアの黒海再進出や、アラバマ号事件への対応など、外交課題への対応に苦慮しました。これらの外交上の失敗は、国内でのグラッドストン内閣への批判を招く要因となりました。

総辞職: 1873年には、自由党内部の対立が激化し、グラッドストン内閣は分裂状態に陥りました。グラッドストンが推進した所得税廃止問題をめぐって、党内は意見が真っ二つに割れました。最終的に、1874年2月の総選挙で自由党は惨敗し、保守党が勝利を収めました。この結果を受け、グラッドストン内閣は総辞職し、第2次ディズレーリ内閣が発足しました。

内閣の意義: 第1次グラッドストン内閣は、多くの自由主義改革を実現した一方で、外交面での苦戦や党内分裂など、多くの課題を抱えていました。しかし、この内閣の取り組みは、19世紀イギリス社会の変容に大きな影響を与え、国民の政治参加、社会平等、教育の普及など、現代イギリス社会の礎を築いたと言えるでしょう。アイルランド問題への取り組みや、自由党と保守党の勢力争い、秘密投票制度の導入といった出来事を理解することは、19世紀イギリスの歴史を理解する上で不可欠です。

参考文献

尾鍋輝彦『最高の議会人 グラッドストン』清水書院〈清水新書016〉、1984年
新版『最高の議会人　グラッドストン』清水書院「新・人と歴史29」、2018年
神川信彦『グラッドストン 政治における使命感』君塚直隆 解説、吉田書店、2011年
坂井秀夫『政治指導の歴史的研究 近代イギリスを中心として』創文社、1967年

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