第2次ディズレーリ内閣

第2次ディズレーリ内閣：帝国主義と社会政策の狭間で

1874年2月から1880年4月まで続いたイギリスの第2次ディズレーリ内閣は、保守党党首ベンジャミン・ディズレーリを首相とする政権でした。この内閣は、強硬な帝国主義政策と意欲的な社会政策を推進した一方、経済不況や自由党の台頭によってわずか6年で幕を閉じます。その激動の時代を振り返り、内閣の成立から崩壊までの経緯、主要政策、そしてその歴史的意義を考察します。

成立への道：野党からの躍進

1868年の総選挙で敗北を喫し、野党に転落した保守党は、ディズレーリの指導の下、自由党政権の弱腰外交を批判、代わりに積極的な帝国主義政策を掲げることで国民の支持を取り戻していきます。1874年の総選挙では保守党が圧勝。自由党のグラッドストン内閣は総辞職を余儀なくされ、ディズレーリはヴィクトリア女王から組閣の大命を受け、第2次ディズレーリ内閣が発足しました。

党内にはディズレーリへの反発も存在しましたが、ソールズベリー侯爵やカーナーヴォン伯爵といった重鎮政治家も入閣することで、内閣は安定性を増しました。それぞれの専門分野に長けた人材を配置した能力の高い内閣は、保守党にとって第2次ピール内閣以来の安定政権となりました。

主要政策：帝国と社会の両立

ディズレーリ内閣は、国内では社会政策、国外では帝国主義政策を積極的に推進しました。内務大臣クロスは、労働者住宅改善法や公衆衛生法などを成立させ、都市環境の整備や労働者の生活改善に貢献しました。また、労働組合の権利を保護する法律も制定され、社会の安定化に務めました。

一方、外交面では、ロシアへの牽制と帝国主義的拡大が基調でした。最も重要な成果の一つがスエズ運河の買収です。ディズレーリは反対派を説得し、エジプト半植民地化への道を切り開きました。露土戦争では、トルコ領土保全とロシアへの対抗を主張。閣内での意見対立も生じ、カーナーヴォン伯爵とダービー伯爵が辞任する事態に発展しました。しかし、ベルリン会議ではロシアの地中海進出を阻止し、キプロスを獲得するなど、外交上の成果も残しました。

さらに、アフガン戦争やトランスヴァール共和国併合、ズールー戦争など、インドや南アフリカにおける植民地政策も積極的に展開。イギリス帝国の拡大に大きく貢献しました。これらの政策は、帝国の繁栄と国民生活の向上を目指したものでしたが、同時に植民地支配による負の影響も無視できません。

崩壊の兆候：不況と自由党の躍進

1876年頃からイギリス経済は不況に陥り、農業も不振に陥りました。政府の対応が遅れたことで地方の不満が高まり、保守党から農民同盟が分離する事態が発生しました。加えて、自由党のグラッドストンが展開したミッドロージアン・キャンペーンは、ディズレーリ政権への批判を効果的に伝え、国民の支持を大きく揺るがしました。

1880年の総選挙では自由党が圧勝し、第2次ディズレーリ内閣は総辞職を余儀なくされました。わずか6年間の政権運営でしたが、積極的な帝国主義政策と社会政策を推進したディズレーリ内閣は、イギリスの歴史に大きな足跡を残しました。しかし、経済不況への対応の遅れや自由党の巧みな政治戦略の前に、その輝かしい時代は終焉を迎えたのです。

参考文献

坂井秀夫『政治指導の歴史的研究 近代イギリスを中心として』創文社、1967年
ブレイク男爵 著、谷福丸 訳、灘尾弘吉監修 編『ディズレイリ』大蔵省印刷局、1993年
* ジャン・モリス 著、椋田直子 訳『ヘブンズ・コマンド 大英帝国の興隆 下巻』講談社、2008年

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