第1海兵ヘリコプター飛行隊

第1海兵ヘリコプター飛行隊（HMX-1）：大統領専用機「マリーンワン」を運用する精鋭部隊

アメリカ海兵隊第1海兵ヘリコプター飛行隊（HMX-1、通称ナイトホーク）は、アメリカ合衆国大統領、副大統領、そして各国元首など要人のヘリコプター輸送を担う、世界で最も有名なヘリコプター飛行隊の一つです。大統領搭乗時のコールサインは「マリーンワン」として知られています。

HMX-1は、ワシントンD.C.近郊のバージニア州クワンティコ海兵隊航空施設を拠点とし、アナコスティア＝ボーリング統合基地とアンドルーズ空軍基地に分遣隊を置いています。その任務は、単なる要人輸送にとどまらず、高度な飛行技術と機材運用能力を必要とするものです。かつては航空機の運用試験や評価も担当していましたが、2014年以降は、その一部をアリゾナ州ユマのVMX-1に引き継ぎ、現在も要人輸送特有の専門性を活かした任務を継続しています。新型大統領専用ヘリコプターVH-92Aは2017年に初飛行、2020年に運用開始されました。

歴史：上陸作戦から大統領輸送へ

HMX-1の起源は1946年にさかのぼります。ロイ・ガイガー大将がビキニ環礁での核実験視察後、原子爆弾の登場による上陸作戦の困難さを認識。この問題を解決するため、輸送ヘリコプターの開発が提唱され、実験飛行隊の創設に至りました。1947年12月1日、HMX-1はコネチカット州とバージニア州クワンティコで創設され、シコルスキーHO3S-1やパイアセッキHRP-1を用いた性能試験を実施。当初はわずか3名しか輸送できませんでしたが、ヘリコプターによる兵員輸送の可能性を示しました。

朝鮮戦争では、HMX-1のヘリコプターがVMO-6に配備され、釜山橋頭堡の戦いなどで活躍。戦場観測、負傷兵の後送、パイロット救出など、多様な任務をこなしました。また、長津湖の戦いでは、孤立した海兵隊部隊間の連絡手段として重要な役割を果たしました。戦争での経験は、海兵隊におけるヘリコプター運用の発展に大きく貢献しました。初期の数年は、HMX-1が訓練コマンドとして機能し、初のヘリコプター輸送飛行隊であるHMR-161の中核となるパイロットを育成しました。

転機となったのは1957年。ドワイト・D・アイゼンハワー大統領がロードアイランド州ニューポートで休暇中、リトルロック高校事件に対応するため緊急にホワイトハウスに戻る必要が生じました。HMX-1のUH-34ヘリコプターが大統領をエアフォースワンまで空輸。これが大統領のヘリコプター輸送の最初の事例となり、HMX-1の任務を大きく拡大させました。この時、機長を務めたヴァージル・D・オルソン大佐は「マリーンワン」の最初のパイロットとなり、大統領空輸手順の多くを確立しました。

その後、HMX-1はホワイトハウスのサウスローンへのヘリコプター着陸を可能にし、アンドルーズ空軍基地との間を往復する大統領空輸を担うようになりました。1976年には、大統領のヘリコプター輸送は世界中で海兵隊が単独で責任を負うことになり、現在では副大統領、国防長官、各国元首らの輸送も行っています。2009年には、初めて女性パイロットが「マリーンワン」の操縦を担当しました。

航空機：時代と共に進化する機材

HMX-1は、時代に応じて様々なヘリコプターを運用してきました。最初の公式な大統領専用ヘリコプターはVH-34チョクトーで、その後VH-3Aシーキング、改良型のVH-3Dへと移行。現在も運用されているVH-60Nホワイトホークは、ローターを折り畳んで輸送機に搭載できるため、海外での運用に適しています。これらのヘリコプターはVIP輸送に特化されており、パイロット、副操縦士、クルーチーフに加え、VH-60Nには通信システム操作員も搭乗します。

また、HMX-1では、CH-46シーナイトやCH-53Eスーパースタリオンといった支援ヘリコプターも運用。これらはMV-22BオスプレイとCH-53Kキングスタリオンへの更新が進められており、2013年にはMV-22オスプレイが大統領空輸を初めて支援しました。

かつてはVH-71ケストレルを導入予定でしたが、計画は中止となり、その後継機としてVH-92Aが運用されています。

組織：ホワイトサイドとグリーンサイド

HMX-1は、「ホワイトサイド」と「グリーンサイド」の2つの主要組織から構成されます。ホワイトサイドは要人空輸分遣隊であり、その任務の大半はホワイトハウス警護室の指揮下で行われます。グリーンサイドは、V-22の実用試験や海兵隊戦闘開発コマンドの訓練支援など、他の任務に当たります。飛行隊記号の「X」は「Experimental（試験）」を意味し、HMX-1が当初担っていた試験任務の遺産を表しています。

要人空輸分遣隊で一定期間任務に従事した海兵隊員には、大統領奉仕章が授与されます。HMX-1は、その高い技術力と責任感で、アメリカ合衆国の安全と威信を守る重要な役割を果たし続けています。

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