第10艦隊 (アメリカ軍)

アメリカ海軍第10艦隊

アメリカ海軍に「第10艦隊（United States Tenth Fleet）」として編成された組織は、その歴史において二度の異なる役割を持って登場しました。一度目は第二次世界大戦中に編成された対潜水艦戦を専門とする部隊として、そして二度目は2010年に設けられたサイバー・電子戦部隊としてです。

対潜水艦戦部隊（1943年編成）

最初に第10艦隊が設立されたのは、第二次世界大戦の最中、1943年のことでした。この部隊は、当時の戦況において喫緊の課題であった対潜水艦戦への対応を目的とした特殊な組織でした。部隊名に「艦隊」と冠されてはいましたが、実際には艦船や実働部隊を一切保有せず、戦闘行動を直接担当することもありませんでした。活動の場はワシントンD.C.に置かれ、構成人員も約50名程度の少数精鋭でした。

[アメリカ合衆国]]が1941年12月に第二次世界大戦に参戦して以降、ドイツ海軍の潜水艦（Uボート）による通商破壊は深刻な問題となり、多数の商船が犠牲となりました。これに対し、アメリカ海軍は船団護衛体制の強化など、対潜警戒に力を入れました。1943年に入ると、敵潜水艦に対する防衛および撃破をより効果的に進めるためには、対潜水艦戦術に関する高度な専門知識を持つ海軍組織が不可欠であるとの判断が下されました。そこで、従来の「艦隊]」という組織形態を応用し、対[[潜水艦戦術の研究、分析、および開発を専門に行う部署として、1943年5月に第10艦隊が創設されたのです。

第10艦隊自身は直接的な指揮権や実働部隊を持ちませんでしたが、海軍作戦部長であるアーネスト・キング大将を通じて、当時の対潜戦において有効とされる戦術や、効率的な組織編成に関する重要な提言を行いました。その活動は、大西洋における連合国側の対潜戦の優位確立に貢献したとされています。ドイツの降伏に伴い、この最初の第10艦隊は1945年6月に解散されました。

サイバー戦部隊（2010年編成）

時を経て、2010年1月29日、第10艦隊の名称が再びアメリカ海軍の組織として使われることになりました。今度は、電子戦やサイバー空間における作戦を担当する部隊としての再編成です。この新しい第10艦隊は、「艦隊サイバーコマンド（U.S. Fleet Cyber Command）」という別称も持っています。

この再編成は、現代戦におけるサイバー空間の重要性の高まりを背景に行われました。第10艦隊は、2010年5月に正式に運用を開始したアメリカ軍のサイバーコマンド（USCYBERCOM）の一翼を担っています。陸軍の陸軍サイバーコマンド、空軍の第24空軍（現在の第16空軍の一部）、および海兵隊の海兵隊サイバースペースコマンドなど、他の軍種のサイバー関連部隊と連携して活動しています。部隊の本部は、メリーランド州のフォートミードに置かれています。

このように、アメリカ海軍の第10艦隊は、異なる時代において、それぞれその時代の戦況と技術に対応した特殊な役割を担う組織として編成されてきました。かつての対潜水艦戦の専門家集団から、現在のサイバー・電子戦の最前線へと、その任務は大きく変化しています。

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