第2次グラッドストン内閣

第2次グラッドストン内閣：1880年から1885年のイギリス政治

概要

第2次グラッドストン内閣は、自由党党首ウィリアム・グラッドストンが首相を務め、1880年4月から1885年6月まで続いたイギリスの内閣です。東方問題におけるグラッドストンの活躍や1880年の総選挙勝利によって成立しましたが、内閣期間中はアイルランド問題、アフガニスタン、エジプト、スーダンなど、数々の国内外問題に直面し、激しい閣内対立に見舞われました。最終的には、アイルランド政策をめぐる対立が内閣崩壊へと繋がります。


組閣までの経緯

第1次グラッドストン内閣の下野後、自由党は野党となります。グラッドストン自身は一時的に政界から身を引いていましたが、東方問題の勃発を機に政治活動を再開。スコットランドでの精力的な演説活動（ミッドロージアン・キャンペーン）は、自由党への支持を大きく高めました。1880年の総選挙で自由党が勝利を収め、グラッドストンは再び首相に就任することになります。しかし、女王ヴィクトリアはグラッドストンを嫌悪しており、当初は組閣の大命をハーティントン侯爵に与えました。しかし、ハーティントン侯爵がグラッドストン抜きでの組閣は不可能であると述べたため、女王は渋々グラッドストンに大命を与え、第2次グラッドストン内閣が発足しました。


内閣の不統一感

第2次グラッドストン内閣は、発足時から閣内における不一致が顕著でした。自由党内には、急進派とホイッグ貴族という対立軸が存在し、新急進派の台頭によってその対立はさらに複雑化していました。特に、新急進派の代表格であるジョゼフ・チェンバレンは高額所得者への増税を主張し、ホイッグ貴族との摩擦を生みました。


主な政策

内政:

アイルランド問題: アイルランドの反政府運動を弾圧するためアイルランド強圧法を制定する一方、アイルランド土地法によって小作人の保護にも取り組みました。
選挙制度改革: 第三次選挙法改正を行い、都市部で導入されていた戸主選挙権制度を地方にも拡大しました。


外交:

アフガニスタン: アフガニスタン問題においては、インド総督リットン伯爵を罷免し、アフガニスタン王との条約締結によりアフガニスタンの外交権を掌握しました。
南アフリカ: 第一次ボーア戦争では、ボーア人に譲歩し、イギリスの宗主権を認めさせる形でトランスヴァール共和国の再独立を認めました。
エジプト: エジプトのオラービー革命への対応では、閣内論争の末、チェンバレンやハーティントン侯爵らの強硬路線が採用され、エジプトへの武力侵攻と占領が行われました。ジョン・ブライトはこれに反発して辞任しました。
スーダン: マフディーの反乱に対処するため、当初スーダンからの撤退を決定しましたが、ゴードン将軍の窮地を救うため、その後援軍派遣を決定しました。しかし、ハルトゥーム陥落によりゴードン将軍が戦死し、内閣は厳しい批判にさらされました。


総辞職

アイルランド強圧法の延長問題をめぐり、閣内は再び対立。チェンバレンはアイルランドへの権限委譲を主張しましたが、この対立は、アイルランド議会党が保守党と連携することに繋がりました。政府予算案に対する修正案がアイルランド議会党の賛成票を得て可決された結果、グラッドストンは総選挙を避けて総辞職し、第1次ソールズベリー侯爵内閣が成立しました。


結論

第2次グラッドストン内閣は、国内外の問題に積極的に対処しようとした一方で、閣内対立や女王との不和に苦しみました。アイルランド問題への対応、そして強硬外交が内閣の存続を脅かし、最終的に総辞職という結末を迎えたことは、19世紀イギリス政治史において重要な出来事です。


参考文献

尾鍋輝彦『最高の議会人 グラッドストン』
新版『最高の議会人　グラッドストン』
神川信彦、君塚直隆解説『グラッドストン 政治における使命感』
坂井秀夫『政治指導の歴史的研究 近代イギリスを中心として』
ジャン・モリス 著、椋田直子 訳『ヘブンズ・コマンド 大英帝国の興隆 下巻』
マーティン・ユアンズ 著、柳沢圭子、海輪由香子、長尾絵衣子、家本清美 訳、金子民雄 編『アフガニスタンの歴史 旧石器時代から現在まで』

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