第36回世界遺産委員会

第36回世界遺産委員会：2012年の記録

2012年6月24日から7月6日にかけて、ロシアのサンクトペテルブルクで第36回世界遺産委員会が開催されました。この会議は、世界遺産条約採択40周年という記念すべき年にあたり、タヴリーダ宮殿を会場に、世界各国からの代表者が集まりました。

会議の概要

開催地と期間

開催地：ロシア、サンクトペテルブルク（タヴリーダ宮殿）
期間：2012年6月24日～7月6日

委員国

議長国：ロシア（議長：エレノア・ミトロファノワ）
副議長国：フランス、マレーシア、メキシコ、南アフリカ共和国、アラブ首長国連邦
その他委員国：スイス、ドイツ、エストニア、セルビア、コロンビア、インド、カンボジア、タイ、日本、アルジェリア、エチオピア、セネガル、マリ、イラク、カタール
書記：メキシコ

新規登録された世界遺産

第36回委員会では、文化遺産20件、自然遺産5件、複合遺産1件の計26件が新たに世界遺産に登録されました。以下に主な登録物件をまとめます。

自然遺産

ジェンガ・デ・ラ・パタゴニア（アルゼンチン）
紅河ハニ棚田（中国）
西ガーツ山脈（インド）
レナ川の柱群自然公園（ロシア）
サングネブ海洋国立公園とドンゴナーブ湾-ムッカラ島海洋国立公園（スーダン）

複合遺産

ロカ岬とラサンの文化景観（モロッコ）

文化遺産

アラビアのインセンス・ルート（オマーン）
エル・ビフの要塞都市（スペイン）
エドワード朝時代の庭園都市（イギリス）
ギルドの町並み（ドイツ）
バチカンのルネサンス建築（イタリア）
イワサクラの絵画が残る古代遺跡（ロシア）
ラージャスターンの丘陵城塞群（インド）
ペルシャ庭園（イラン）
聖域、ピラミッド、寺院（メキシコ）
セベリウス帝時代の石造建築（リビア）
カタルーニャ地方の建築様式（スペイン）
スロベニアの山並みと集落（スロベニア）
ベルリン近郊の湖沼（ドイツ）
アビラの歴史的街並み（スペイン）
ルカ王の墓（トルコ）
サナア旧市街（イエメン）
ロザリオの丘の歴史と芸術（コロンビア）
古代都市パレスチナ（パレスチナ）
モナコの歴史的な教会（モナコ）
ベネディクト会修道院の歴史的建造物群（スイス）

緊急案件と危機遺産

緊急案件

緊急案件として、以下の2件が文化遺産として推薦・審議されました。

イエス生誕の地：ベツレヘムにある聖誕教会と巡礼路（パレスチナ）
ガリラヤ湖の古代遺跡（イスラエル）

これらのうち、「イエス生誕の地」は、緊急登録と同時に危機遺産リストにも登録されました。

危機遺産からの除去

以下の2件が危機遺産リストから除去されました。

フィリピン・コルディリェーラの棚田群（フィリピン）：地域社会の努力により、耕作放棄の問題が改善されたため。
ラホール城とシャーラマール庭園（パキスタン）：周辺開発に対する緩衝地域の設定と管理体制が整備されたため。

危機遺産への新規登録・再登録

以下の物件が危機遺産に登録されました。

海商都市リヴァプール（イギリス）：ウォーターフロントの再開発計画を理由に登録。
パナマのカリブ海側の要塞群（パナマ）：管理計画の不備を理由に登録。
アスキアの墓（マリ）：マリ北部紛争を理由とする登録。
トンブクトゥ（マリ）：マリ北部紛争を理由とする登録。
イエス生誕の地：ベツレヘムにある聖誕教会と巡礼路（パレスチナ）：緊急登録と同時に登録。

注目された議題

パナマの危機遺産回避

パナマの「パナマ・ビエホとパナマ歴史地区」は、当初危機遺産への登録が勧告されていましたが、パナマ当局の働きかけにより回避されました。この決定は、パナマ政府の積極的な姿勢を示す一方で、審査プロセスの公平性に対する疑問も提起されました。

ラージャスターンの丘陵城塞群

この物件は、諮問機関の「不登録」勧告を覆し、「情報照会」決議となりました。さらに、諮問機関が現地調査の専門員とは別に、助言を目的とする専門員の派遣が約束され、従来の審査プロセスに変化をもたらす可能性が示唆されました。

世界遺産基金の財政問題

アメリカがUNESCOへの分担金拠出を停止したことにより、世界遺産基金の財政が深刻化しました。このため、限られた予算の効率的なやりくりが議論されました。

その他の動向

マリ北部紛争におけるトンブクトゥの破壊行為に対する非難決議
オカピ野生生物保護区でのレンジャー殺害事件に対する緊急アピールの採択

参考資料

稲葉信子 (2013) 「第36回世界遺産委員会報告」「危機遺産の現状」（日本ユネスコ協会連盟監修『世界遺産年報2013』朝日新聞出版、pp.22-25）
西和彦 (2012) 「第三六回世界遺産委員会の概要」（『月刊文化財』2012年11月号、pp.47-51）
古田陽久 古田真美監修 (2012) 『世界遺産ガイド - 世界遺産条約採択40周年記念特集』シンクタンクせとうち総合研究機構
* 第36回世界遺産委員会（世界遺産センター、英語・フランス語）


以上が、第36回世界遺産委員会の詳細な記録です。

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