第38回都市対抗野球大会

第38回都市対抗野球大会

1967年の夏、社会人野球の最高峰を決める第38回都市対抗野球大会が、東京都の後楽園球場で開催されました。7月27日に幕を開け、当初は10日間の日程が組まれていましたが、天候不良による度重なる中断やノーゲーム、そして3度にも及ぶ引き分け再試合の影響で、会期は8月8日まで延長され、13日間にわたる異例の大会となりました。全国から選ばれた31チームが参加し、中には初めて大舞台を踏む4チームも含まれていました。

大会を彩った激闘

史上最多Vを達成した日本石油

この大会を制し、栄光の黒獅子旗を手にしたのは、横浜市の日本石油でした。チームにとって5度目の優勝は、それまで東京倶楽部と全鐘紡が保持していた4回の最多優勝記録を更新する新記録となりました。この快挙を牽引したのは、弱冠ハタチのエース、平松政次投手です。前年の大会で小野賞を受賞し、将来を嘱望されていた平松投手は、今大会で驚異的なタフネスと安定感を見せました。5試合全てに登板し、合計42イニングを投げ抜いて相手に許した自責点はわずか2点。特に決勝戦では、疲れ知らずの快投で相手打線を完璧に封じ込める完封勝利を挙げただけでなく、自らバットでもレフトスタンドへホームランを放つ離れ業を演じ、大会の最優秀選手に贈られる橋戸賞を満場一致で獲得しました。

準優勝、浜松・日本楽器の長い道のり

決勝で惜しくも敗れ、準優勝に終わったのは、浜松市の日本楽器です。2回目の出場ながら決勝まで駒を進める快進撃を見せましたが、その道のりは想像を絶するものでした。1回戦と準決勝でそれぞれ引き分け再試合を経験するなど、幾度となく延長戦にもつれ込む接戦を繰り広げました。決勝を含めると、彼らは後楽園球場で実に7試合、総イニング数74という、都市対抗史上でも類を見ない壮絶な戦いを強いられました。最後は日本石油の平松投手の前に完封負けを喫しましたが、その粘り強く、諦めない戦いぶりは観衆に深い感銘を与え、チームとして最も印象に残ったチームに贈られる小野賞を受賞しました。

熱戦譜：日本楽器の戦い

準優勝チーム、日本楽器の道のりは、まさにドラマの連続でした。度重なる雨による中断にも見舞われながら、土壇場での粘りや代打の活躍で窮地を脱しました。

1回戦 vs 電電近畿: 前々回覇者との対戦は、終盤3点差を9回2死から追いつく粘りを見せ、延長14回、4時間23分の激闘の末に引き分け再試合となりました。
1回戦再試合 vs 電電近畿: 翌日行われた再試合は、雷雨による約4時間の中断を挟みました。再びリードを許す展開でしたが、8回に代打川島がソロHR、9回に代打山田が逆転の2ランHRを放ち同点。延長10回に勝ち越して、ようやく都市対抗での初勝利を手にしました。
2回戦 vs 立正佼成会: 降雨による中断後、同点のまま迎えた9回裏1死2塁。代打東本が投入されると、期待に応えるサヨナラ2ランホームランを放ち劇的な勝利。これは大会史上初の代打サヨナラ本塁打でした。
準々決勝 vs 北海道拓殖銀行: この試合では、先発の仲子投手が相手打線をわずか2安打に抑え、完封勝利を収めました。
準決勝 vs 日立製作所: 3本のソロHRなどでリードしましたが、9回に追いつかれ、延長13回引き分け再試合。4時間20分の熱戦でした。
準決勝再試合 vs 日立製作所: 雨のためノーゲームとなりました。
準決勝再再試合 vs 日立製作所: 三度目の正直。延長10回2死からチャンスを作り、連続タイムリーで勝ち越して決勝進出を決めました。
決勝 vs 日本石油: 準決勝を三度戦うなど、疲労困憊の状態で迎えた決勝は、4連投、この大会8試合目。主力に体調不良者が出る中、日本石油の平松投手に完璧に抑え込まれ、完封負けを喫しました。

大会の記録と傾向

「東高西低」の勢力図

今大会は、東日本勢の優位性が際立つ結果となりました。ベスト4は関東勢3チームと日本楽器（浜松）が占め、西日本勢は近畿勢が初戦で全て敗退するなど苦戦し、ベスト8に残ったのはクラレ岡山一チームのみという「東高西低」の傾向が顕著でした。

記録的な本塁打数

打撃面では、ホームランが量産されました。大会全体で記録された本塁打は43本に達し、これは前回大会の29本を大きく上回る、当時の大会史上最多記録となりました。準優勝の日本楽器も7本のホームランを放ち、これは当時の最多タイ記録でした。また、代打として登場した選手が放った本塁打は7本と、従来の最多記録だった3本（第25回大会）を大幅に更新し、試合終盤の代打攻勢がドラマを生んだ大会でもありました。

大会を彩った人々

主な表彰選手

大会の活躍が認められた選手たちです。

橋戸賞（最優秀選手）: 平松政次投手（日本石油）
久慈賞（敢闘賞）: 中野孝征遊撃手（日本楽器）
小野賞（最も印象に残ったチーム）: 浜松市・日本楽器チーム
首位打者: 矢野洋制二塁手（クラレ岡山）
* 打撃賞: 広瀬幸司捕手（日本石油）

応援団の熱戦

スタンドでの応援も熱気を帯びていました。応援団コンクールでは、最優秀賞に日本石油、優秀賞に日立製作所、敢闘賞に日本楽器、努力賞に北海道拓殖銀行が選ばれました。

第38回大会は、天候に翻弄されながらも、エースの快投、記録的な本塁打、そして準優勝チームの粘り強い戦いなど、多くの記憶に残るシーンが生まれた大会として語り継がれています。

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