第4回帝国議会

第4回帝国議会は、1892年（明治25年）11月29日から翌1893年（明治26年）2月28日までの会期で開催された、大日本帝国憲法下の帝国議会における通常会です。

組閣から開会までの経緯

第3回帝国議会閉会直後、第1次松方内閣の首相であった松方正義は辞意を表明し、後継として伊藤博文を推薦しました。しかし、当時の伊藤は、直前の第2回衆議院議員総選挙における政府の激しい選挙干渉とその事後処理を巡る松方内閣内の混乱に強い不満を抱いていました。

伊藤は、政党組織による政府基盤の強化を切望しており、明治天皇にも奏上して自ら政党を結成する許可を求めました。彼は、天皇主権を奉じる政党を結成し、自由民権運動の流れを汲む衆議院の多数派（民党）に対抗することが、内閣を支える唯一の方法だと考えていました。しかし、周囲の反対や説得により、この希望は実現しませんでした。このような状況下で、松方から後継に推薦されたものの、伊藤は松方の真意を疑っていました。

事態打開のため、1892年 6月29日、三田の松方邸にて元老会議が開かれ、今後の政局運営に関する基本方針が議論されました。伊藤は、この難局を乗り切るためには、自身を含む主要な元老たちが皆で新内閣を支える必要があると主張し、それが叶わない限り組閣は引き受けられないとの強い姿勢を示しました。「明治政府末路の一戦」とまで訴える伊藤に対し、内心では伊藤の主導権を認めがたく思っていた山縣有朋も、最終的には同意に至ります。こうして、伊藤博文、山縣有朋、井上馨、黒田清隆、大山巌の5名の元老に加え、衆議院に影響力を持つ陸奥宗光、後藤象二郎、河野敏鎌らも入閣することとなりました。組閣作業は難航し、3週間の曲折を経て、8月8日、ようやく第2次伊藤内閣が発足しました。

開会直前の事故と議会での対立

第4回帝国議会は11月29日に開会が予定されていました。しかし、そのわずか2日前、11月27日に伊藤首相が人力車での移動中に小松宮妃の馬車と接触する事故に遭遇し、投げ出されて顔面を強打するという重傷を負いました。前歯と犬歯を折り、口の中を切り裂き、脳震盪の後遺症も残るほどで、首相は一時的に執務不能に陥りました。このため、しばらくの間は井上馨内相が首相臨時代理を務め、黒田清隆、山縣有朋とともに議会対応にあたることになりました。

議会が開会されると、政府は歳出総額8,375万円の予算案を衆議院に提出しました。当時の衆議院議長は、民党の中心勢力である自由党の星亨でした。衆議院の予算委員会は、政府の予算案に対して大幅な修正を加えることを決定し、実に884万円もの削減を行いました。特に、新規の軍艦建造費は全額が削除されるという厳しい対応でした。

1893年に入ると、政府内では関係閣僚会議が開かれ、この予算削減への対応が協議されました。当初、政府は予算削減の一部を受け入れる代わりに、衆議院にも譲歩を迫るという妥協案で事態を収拾しようとする動きがありました。これは、第1回帝国議会で採用された手法に倣うものでした。しかし、山縣有朋はこの案に強く反対し、一度譲歩すれば議会の要求は際限なくエスカレートすると主張しました。政府は、議会が甲鉄艦の建造予算を認めれば地租軽減に応じるという考えも持っていましたが、当時の衆議院の狙いは政府を倒閣することにあり、軍艦建造費が復活する見込みはほとんどありませんでした。この状況を鑑み、政府は議会との交渉を諦め、衆議院とは対決姿勢で臨むことを決断しました。予算修正案は貴族院で否決させる一方、衆議院に対しては断固とした態度で臨むこととしたのです。療養中の伊藤首相と井上内相は書面で連絡を取り合い、この対決路線で一致し、閣議での承認を得ました。

和衷協同の詔勅による打開

政府が衆議院との対立を深め、事態が膠着する中で、政府の「智恵袋」と称された井上毅は、この危機的な状況を「治乱の機は、まさに今日にあり」と捉え、「非常の悪機会こそ非常の好機会である」と述べました。そして、「今、何もしなければ将来いかなる善後策も無益である」との見解を示し、事態が決定的な局面を迎えた際に詔勅を発布することで一挙に局面を打開すべきだと進言しました。これは、第三議会以来、井上毅が温めていた秘策でした。政府がまさに瀬戸際の状態に追い込まれたこの時こそが、彼が言う「非常の悪機会」、すなわち「非常の好機会」であったのです。

そして、1893年 2月10日、「和衷協同の詔勅」、通称「和協の詔勅」が発布されました。正式名称は「在廷ノ臣僚及帝国議会ノ各員ニ告ク詔勅」といい、政府にとってはまさに最後の切り札でした。詔勅の具体的な内容は、天皇が軍艦建造費として宮廷費の節約分と文武官の俸給の1割を提供するため、議会もまた政府に協力し、一致団結して国家の発展に尽力せよ、というものでした。

この詔勅は議会に対して絶大な効果を発揮しました。天皇からの直接的な命令に、各政党は応じざるを得なくなりました。特に、民党第一党であった自由党は「詔勅遵奉」の姿勢を明確にし、政府への接近を図りました。この頃から、自由党の主張は、従来の民力休養論的なものから、軍備増強などを訴える「対外硬」的な内容へと変化していくことになります。国民協会もまた「詔勅遵奉」に同意しました。改進党は、政府に行政整理を協議する委員会の設置を条件として詔勅遵奉を決定しました。2月13日には改進党の提案が成立し、河野広中、尾崎行雄、島田三郎、柴四朗ら9名が委員に選任されました。そして2月15日、衆議院議長の星亨と貴族院議長の蜂須賀茂韶は揃って明治天皇に対し、詔勅を謹んで遵奉する旨を奉答しました。

予算の成立と閉会

詔勅発布後、予算案は再査定や費用科目の変更などが行われ、最終的な合意が形成されました。予算の削減額は当初の884万円から267万円（うち六十七条対象分は198万円）に大幅に縮小され、特に問題となっていた新艦建造費の削減額はわずか21万円にとどまりました。これに加え、文武官の俸禄献納額148万円が予算に充当されることとなりました。この修正された予算案は、2月22日に衆議院を通過し、その4日後の2月26日には貴族院も通過しました。

こうして、政府と衆議院の激しい対立は、天皇の詔勅という異例の手段によって収拾され、予算案は成立に至りました。第4回帝国議会は、当初の予定通り1893年2月28日に閉会しました。この議会は、初期帝国議会における政府と民党との力関係、そしてそれを調整するために天皇の権威が用いられた事例として、日本の近代政治史において重要な位置を占めています。

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