第40回ベルリン国際映画祭

1990年2月9日から20日にかけて開催された第40回ベルリン国際映画祭は、前年の11月にベルリンの壁が崩壊した直後という歴史的な時期に開催されたという点で、大きな意義を持っています。東西に分断されていたベルリンで初めて合同開催された映画祭であり、その雰囲気は、冷戦終結という時代の転換点を象徴するものでした。

この映画祭では、コンペティション部門に23本の長編映画と16本の短編映画が出品されました。その中で、金熊賞には2作品が輝きました。1つは、社会主義体制下のチェコスロヴァキアを舞台にしたイジー・メンツェル監督の『つながれたヒバリ』です。もう1つは、ギリシャ出身のコスタ＝ガヴラス監督がアメリカで制作したサスペンス作品『ミュージックボックス』です。これらの受賞作品は、政治的・社会的な背景を反映した作品であり、時代の変化を反映した選考結果と言えるでしょう。

銀熊賞やその他の賞も、多様な国籍とジャンルの映画に贈られました。キラ・ムラートワ監督の『Asteniceskij sindrom』が審査員特別賞を受賞し、ミヒャエル・セントフレーベン監督の『ナスティ・ガール』は監督賞を受賞しました。また、主演男優賞にはイアン・グレン（『Silent Scream』）、助演賞にはジェシカ・タンディとモーガン・フリーマン（『ドライビング Miss デイジー』）が選ばれました。『Coming Out』(Heiner Carow)は芸術貢献賞を、『黒い雪の年』のシェ・フェイは個人貢献賞を受賞しました。

注目すべきは、パノラマ部門でのアルメニア映画とソ連映画の上映です。これらの作品は、ソ連崩壊の前後で、社会主義体制下の生活や、その後の変化を描写したものと考えられ、冷戦終結という時代の大きな変化を反映した上映ラインナップと言えるでしょう。

短編映画部門では、ジム・ジャームッシュ監督による”Coffee And Cigarettes (Memphis Version)”が出品されました。この作品は、後に『コーヒー&シガレッツ』として長編映画として公開されることになります。

コンペティション部門以外でも、多くの注目すべき作品が上映されました。ウディ・アレンの『重罪と軽罪』、チン・シウトンの『テラコッタ・ウォリア 秦俑』、マーチェイ・ディチェルの『天国への300マイル』、エリック・ロメールの『春のソナタ』、ハーバート・ロスの『マグノリアの花たち』、カレル・ライスの『もうひとつのラブストーリー』、Per Ahlinの『Resan till Melonia』、フランク・バイヤーの『Spur der Steine』など、国際的な名匠たちの作品が数多く上映されました。

日本映画もフォーラム部門とレトロスペクティブ部門で上映されました。フォーラム部門では、大島渚の『儀式』、高嶺剛の『ウンタマギルー』、利重剛の『ザジ ZAZIE』が上映され、レトロスペクティブ部門では、黒木和雄の『TOMORROW 明日』、市川崑の『ビルマの竪琴』、清水宏の『蜂の巣の子供たち』、衣笠貞之助の『地獄門』、岡本喜八の『日本のいちばん長い日』といった日本の映画史に残る名作が上映されました。

審査員も、国際的な映画界の著名人から構成されていました。ミヒャエル・バルハウス、Vadim Abdraschitov、スザナ・アマラウ、Lívia Gyarmathy、ヘルケ・ミッセルヴィッツ、スティーヴン・バック、マルガレート・メネゴス、ロベルト・ベニーニ、オットー・ザンダー、リタ・トゥシンハム、スティーヴン・シルバーマンなど、多様な国籍と役割の映画人が審査に関わったことが分かります。

全体として、第40回ベルリン国際映画祭は、ベルリンの壁崩壊という歴史的転換期を背景に、世界各国の多様な映画作品と映画人を集め、冷戦終結後の新たな時代への期待と、その変化を反映した、記憶に残る映画祭となりました。

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