筑紫磐井

筑紫 磐井（つくし ばんせい）

日本の俳人、俳句評論家、そして文部科学省系の元官僚（本名：國谷 実）として知られる筑紫磐井氏は、1950年1月14日、東京都に生まれました。多岐にわたる活動を展開し、現代俳壇において独自の存在感を示しています。

来歴

東京都豊島区に育った筑紫氏は、獨協中学校・高等学校を経て一橋大学法学部に進学しました。大学在学中の1971年に「馬酔木」への投句を始め、1973年には「沖」に入会し、能村登四郎に師事。俳句創作の道を本格的に歩み始めます。1974年に大学を卒業後、科学技術庁に入庁。国家公務員として科学技術行政に携わる傍ら、俳人および俳句評論家としての活動を続けました。

官僚としては、科学技術庁、核燃料サイクル開発機構、科学技術振興事業団、衆議院事務局調査局、科学技術振興機構などで要職を歴任。文部科学省科学技術政策研究所長を務めた後、2007年に退官しました。退官後も、科学技術関連の公益法人や財団などで引き続き要職を務め、その専門知識を活かしました。

俳句活動

筑紫氏は、1990年に俳誌「豈」に参加。1991年からは同誌の編集人を務め、2001年以降は発行人として、同誌の運営と発展に深く関わっています。

その句風は、諧謔味（ユーモア）と知的な遊びに満ちていることが特徴です。第一句集『野干』や第二句集『婆伽梵』では、「女狐に賜る位・扇かな」や「みちのくに戀ゆゑ細る瀧もがな」のように、王朝文学や万葉集といった古典世界を題材に、擬古典的な表現を用いています。これらの作品は、師である能村登四郎だけでなく、攝津幸彦や加藤郁乎といった前衛的な俳人からも高い評価を得ました。

第三句集となる『花鳥諷詠』（『筑紫磐井集』所収）では、「もりソバのおつゆが足りぬ高濱家」や「俳諧はほとんどことばすこし虚子」といった、近代俳句史上の人物や出来事をパロディ化するようなユニークな試みも見られます。これらの初期句集と未発表作品をまとめた『筑紫磐井集』により、2004年に加美俳句大賞スウェーデン賞を受賞。また、2014年の句集『わが時代』では、自身が属する団塊の世代の感覚や時代背景を詠んだ句を収め、現代への視線を加えています。

俳句評論活動

筑紫氏は俳句評論家としても精力的に活動し、多大な功績を残しています。俳句表現やその歴史、理論に対して、ラディカルとも評される独自の視点から問い直しを行う論考を数多く発表してきました。

1994年には『飯田龍太の彼方へ』で第9回俳人協会評論賞新人賞を受賞。2001年には『定型詩学の原理』で第4回加藤郁乎賞を、2004年には『伝統の探求〈題詠文学論〉』で第27回（当時、回次に誤記の可能性あり、2013年の第27回が正しいと判断）俳人協会評論賞を受賞するなど、評論分野でも高く評価されています。これらの評論活動を通じて、俳句の定型や季語といった根幹的な要素の意義を問い直し、その可能性を探求しました。

主な受賞歴

1994年：第9回俳人協会評論賞新人賞（『飯田龍太の彼方へ』）
2001年：第4回加藤郁乎賞（『定型詩学の原理』）
2004年：第9回加美俳句大賞スウェーデン賞（『筑紫磐井集』）、第3回正岡子規国際俳句賞EIJS特別賞
2013年：第27回俳人協会評論賞（『伝統の探求〈題詠文学論〉』）
2021年：令和3年度春の瑞宝中綬章

主な著書

句集

『野干』（東京四季出版、1989年）
『婆伽梵』（弘栄堂書店、1992年）
『花鳥諷詠』（『筑紫磐井集』所収）
『筑紫磐井集』（邑書林〈セレクション俳人〉、2003年）

評論集など

『飯田龍太の彼方へ』（深夜叢書社、1994年）
『定型詩学の原理-詩・歌・俳句はいかに生れたか』（ふらんす堂、2001年）
『近代定型の論理 標語、そして虚子の時代』（邑書林、2004年）
『詩の起源-藤井貞和『古日本文学発生論』を読む』（角川学芸出版、2006年）
『標語誕生-大衆を動かす力』（角川学芸出版〈角川学芸ブックス〉、2006年）
『女帝たちの万葉集』（角川学芸出版、2010年）
『伝統の探求〈題詠文学論〉 俳句で季語はなぜ必要か』（ウエップ、2012年）

國谷実名義（共著等）

『生命と法:クローン研究はどこまで自由か』（大蔵省印刷局、2003年）
『科学技術庁政策史』（科学新聞社出版局、2010年）
『日米科学技術摩擦をめぐって』（実業公報社、2014年）

参考文献

『筑紫磐井集』（邑書林〈セレクション俳人〉、2003年）
『毎日新聞』2007年3月18日付朝刊（東京版）

関連項目

松山宣言

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