築地病院

築地病院：二つの歴史

東京・築地には「築地病院」という名称を持つ二つの異なる病院が存在しました。本稿では、その歴史を詳細に解説します。

スコットランド一致長老教会系の築地病院（健康社）

1874年、スコットランド一致長老教会の医療宣教師ヘンリー・フォールズが、東京・築地に「築地病院」（健康社）を開設しました。これは、施療棟と入院棟を備えた、日本人向けに西洋医学を提供する東京初の伝道病院でした。

フォールズは、外科医、眼科医として活躍し、グラスゴー医科大学の防腐処理術やコレラの治療法などを導入しました。病院では患者の治療だけでなく、若い医師の育成にも力を入れており、解剖を通して人体の構造を教育したり、眼科手術の経験を活かして視覚障害者教育の礎を築いたりしました。

医療費は無料だったため、年間14000人もの患者が訪れる盛況ぶりでした。病院には外国人薬剤師や日本人助手などが雇われ、後に開業医となる櫛部漸もその一人でした。

築地病院は、医学教育の場としても重要な役割を果たしました。日本で最初の視覚障害者教育のための会合が開かれ、後の訓盲院設立へと繋がりました。また、東京一致神学校（明治学院の前身）の講義の一部も病院で行われていました。フォールズは、この地でエドワード・モースの大森貝塚発掘にも協力し、土器に残された指紋に興味を持つなど、多様な活動を行っていました。

さらに、ウィリアム・エドワード・エアトンの妻、マチルダ・チャップリン・エアトンが産科学校を開設し、産科術の講義を行いました。また、多くの書籍を病院図書館に寄贈するなど、医学教育を支援しました。

スコットランド一致長老教会の宣教師サミュエル・G・マクラーレンは、夜間英会話教室を開き、築地病院は地域社会にも貢献しました。1877年には、科学とキリスト教をテーマにした講演会も開催されました。

しかし、1882年頃から患者数が減少。フォールズは一時帰国し、1886年には離日しました。その後、病院は荒廃し、1888年に閉院。建物は工手学校（現・工学院大学）が購入し、校舎として利用されました。

米国聖公会系の築地病院（愛恵病院の後身）

一方、米国聖公会系の「築地病院」は、1884年に深川に開設された「大橋診療所」を起源とします。1890年に「愛恵病院」と改称され、1896年に築地に移転、現在の「築地病院」と改名しました。

1899年に閉鎖されましたが、1901年、ルドルフ・トイスラーが旧築地病院跡地に「聖路加病院」（現在の聖路加国際病院）を開設しました。聖路加国際病院は、この米国聖公会系の築地病院を前身とする病院です。

繋がりと差異

スコットランド一致長老教会系の築地病院と米国聖公会系の築地病院は、名称が同じであるものの、全く別の歴史を持つ病院でした。しかし、フォールズとトイスラーは、それぞれ異なる教会系の宣教師でありながら、医療活動を通じて接点を持っていた可能性も示唆されています。

奥野昌綱と讃美歌

東京公会の長老で後に牧師となった奥野昌綱は、スコットランド一致長老教会系の築地病院に入院中に『やまいの床にも』と題する讃美歌を作曲しました。これは、後に讃美歌397番となりました。

まとめ

築地という地には、異なる宗派の宣教師によって設立された二つの「築地病院」が存在しました。それぞれの病院は、独自の活動を通じて日本の近代医療の発展に貢献しました。これらの病院の歴史は、日本の医療とキリスト教宣教の歴史を理解する上で重要な意味を持っています。

もう一度検索