粛川・順川の戦い

粛川・順川の戦い：朝鮮戦争における空挺作戦

粛川・順川の戦いは、1950年10月20日から23日にかけて、朝鮮戦争中に平安南道粛川郡および順川市付近を舞台として繰り広げられた戦闘です。この戦いは、アメリカ、韓国、イギリスを中心とする国連軍と、北朝鮮軍の間で行われ、朝鮮戦争における大規模な空挺作戦として知られています。

作戦の背景と目標

仁川上陸作戦とソウル奪還作戦に間に合わなかったアメリカ陸軍第187空挺連隊は、金浦飛行場の警備を担当していました。戦況が大きく変動し、平壌攻略が目前に迫ったため、この連隊の投入が決定されました。当初は平壌近郊に降下し、地上部隊の大同江渡河を支援する計画でしたが、北朝鮮軍が平壌を死守する可能性が低いと判断されたため、作戦目標は変更されました。

新しい作戦目標は、北朝鮮政権首脳部と北朝鮮軍主力の退路を遮断し、平壌付近に拘束されている国連軍捕虜を救出することでした。この作戦は、敵対政権の首脳部拘束を作戦目標に含めた点で、空挺作戦史上初めての政治戦略的側面を持つ作戦となりました。

降下場所と時期の決定

降下場所の選定は、当初、交通の要所である平壌近郊、次に満州へと続く幹線道路上の新安州と院里付近が検討されました。しかし、これらの地域は兵站線が延びきり、地上連携部隊の到着も遅れる可能性が高く、降下部隊が敵中に孤立する危険性が指摘されました。最終的に、これらの案の中間点である粛川と順川が降下場所に決定されました。

第187空挺連隊は10月16日には出撃準備が完了していましたが、奇襲効果と降下部隊の安全確保という相反する条件、さらに悪天候の影響で2度降下が延期されました。10月19日夜、地上連携部隊の大同江渡河の目処が立ったため、翌20日に天候が回復すれば降下を実施することが決定されました。

地上連携部隊として、粛川にはアメリカ第24師団隷下のイギリス第27旅団、順川にはドジャーズ支隊（戦車1個中隊と機械化歩兵1個大隊基幹）が前進することになりました。さらに、韓国軍第2軍団長の命令により、韓国軍第6師団も順川への突進を開始しました。

空挺降下の実施

10月20日午前、第187空挺連隊戦闘団は起床し、搭乗を開始しました。雨が晴れるのを待ってから、第1次降下隊（約2,800人）が金浦飛行場を離陸し、順川DZ（降下地域）へ向かいました。降下前には、戦闘爆撃機群によるDZ周辺の「清掃」が行われました。

この降下では、105mm榴弾砲などの重装備が初めて実戦で投下されました。投下された7門の榴弾砲と弾薬のうち、1門と弾薬の約10％が着地時に破損しました。第2次降下隊（約4,000人）は、粛川DZに降下し、周辺の要点を確保して南北の交通を遮断しました。これにより、奇襲は成功し、空挺拠点が完成しました。

しかし、第1大隊が順川北方で偵察を行ったところ、北朝鮮軍主力の活動の痕跡は発見されませんでした。既に北朝鮮軍主力は後退しており、接触できたのは後衛の1個連隊のみでした。さらに、北朝鮮首脳部は10月12日に列車で移動しており、平壌市民からの情報で、捕虜も北へ移送されていたことが明らかになりました。

地上連携部隊との合流

10月20日夜、第3大隊は捕虜移送列車が隠れているとの情報に基づき待ち伏せを行いましたが、列車は現れませんでした。翌21日には、大隊を国道沿いに南下させました。その後、永柔付近の163高地と漁波里の高地で、それぞれ1個大隊規模の北朝鮮軍と交戦し、激しい戦闘となりました。この戦闘で、ある中隊は90人もの損害を被りました。大隊は163高地を占領しましたが、軽装備の空挺部隊は重火力に欠け、損害が増加するにつれて戦力が低下するという空挺部隊特有の現象に苦しみました。

10月21日正午、地上連携部隊は大同江を渡河し、北へ向かって突進を開始しました。夜間は前進を停止し、周辺の警戒を行いました。同じ頃、163高地の第3大隊は高地から撃退され、大隊本部も包囲されました。

10月22日、イギリス第27旅団は、危機的な状況を知らせる連絡を受け、夜明けとともに攻撃を開始しました。友軍との誤射を避けるため銃剣突撃が行われ、混戦状態となりました。その際、オーストラリア大隊は背後から射撃を受け、水田に隠れていた北朝鮮兵を発見しました。

3時間近く続いた激戦の末、10月22日午前11時、両部隊は連携に成功しました。

捕虜虐殺事件

10月21日正午、アメリカ軍第1騎兵師団長一行が粛川に到着した際、付近の住民からアメリカ軍捕虜約200人が鉄道トンネルで銃殺されたという情報が寄せられました。現地調査の結果、死因不明のアメリカ兵の遺体7体が発見され、草むらから1人の生存者が救出されました。生存者の証言によると、捕虜たちは給食中に銃殺されたようです。他の生存者の証言を合わせると、約300人の捕虜が2つの列車に分乗して移送され、アメリカ軍機の爆撃により前進できずに待機していたところ、10月20日の夕食のために列車から降ろされた際、護衛の北朝鮮兵によって機関銃で射殺されたとのことです。

合計で66体の遺体が発見され、23人が救出されました。遺体は、小倉のキャンプで清められた後、本国に送還されました。

戦いの結果と影響

最終的に、この作戦は北朝鮮首脳部の拘束、北朝鮮軍主力の捕捉撃滅、友軍捕虜の救出という当初の目標を達成することはできませんでした。しかし、結果として、国連軍の北進を加速させる要因となりました。韓国軍はそのまま鴨緑江を目指し突進を続け、イギリス軍は戦場整理をしつつ前進を開始しました。第187空挺連隊は任務を終え、10月23日に平壌へ移動しました。

当時、彼らはクリスマスまでに戦争が終わると楽観視していましたが、その時すでに中国軍が南下を開始していました。

参加部隊

国連軍

アメリカ第187空挺連隊
連隊本部及び本部中隊
工兵隊
衛生隊
第1大隊
第2大隊
第3大隊
アメリカドジャーズ支隊（アメリカ第1騎兵師団）
戦車1個中隊
騎兵1個大隊
イギリス第27旅団（アメリカ第24師団）
アーギール大隊
オーストラリア大隊
韓国軍第6師団
その他、国連軍の航空部隊など

北朝鮮軍

第239連隊

参考文献

陸戦史集18 朝鮮戦争5―国連軍の反攻と中共軍の介入―　陸戦史研究普及会編　原書房（1970年）
韓国戦争第二巻 ―洛東江防御戦と国連軍の反攻―　韓国国防軍史研究所編かや書房（2000年）

関連項目

ウィリアム・ウェストモーランド（当時、第187空挺連隊に所属し本作戦に参加していた）
エアボーン

もう一度検索