粟柄越

粟柄越（あわがらごえ）

粟柄越は、福井県美浜町の新庄と滋賀県高島市のマキノ町を結ぶ峠道であり、その標高は760mに達します。この峠道は赤坂山の南尾根を通り、江若国境の一つです。近江と若狭を繋ぐ重要な道の一環として利用されてきました。

概要

江若国境の峠道には、古くから様々なルートが存在しました。例えば、有名な鯖街道にあたる針畑越や、九里半街道（現在の国道303号）などがありますが、粟柄越は若狭国の最東端に位置する峠道として特に注目されています。その名は、福井県側にあった粟柄集落に由来していますが、この集落は現在では廃村となっています。かつては高島越、海津街道とも呼ばれたこともありました。

歴史

粟柄越は、古代から多くの人々に利用されており、『延喜式』にも名が記されています。この峠道は、北陸道の鞆結駅（近江国）と弥美駅（若狭国）を最短で結ぶための支路だったと考えられています。江戸時代には、小浜藩が設けた関所があり、通行を管理していました。若狭地域には、粟柄越の他にも佐柿、熊川、吉坂の関所が存在しました。

小浜藩が編纂した『若狭国誌』によりますと、峠には尼杉と呼ばれる杉の木があったとのことです。明治時代以降も、若狭の海産物や木炭を輸送する重要な道として利用されましたが、大正時代に粟柄集落が廃村となり、昭和に入るとほとんど利用されなくなりました。現在は、福井・滋賀両県から赤坂山や三国山に登るための登山道として使われています。また、新庄には関西電力の変電所があり、送電線が峠を通っているため、登山道は送電線の巡視路としても活用されています。さらに、粟柄越は長距離トレッキングコース「高島トレイル」の通過地点でもあります。

登山道

福井県美浜町側コース

美浜町の国道27号の河原市から県道213号に入り、耳川沿いに上流へ進むと新庄の松屋集落に到達し、ここから折戸谷林道を通って登山口に到着します。登山口からは約40分から50分で水場に着き、さらに30分から45分で笹原と鉄塔が並ぶ県境の峠に到着します。そこから赤坂山までは10〜15分の距離です。

滋賀県高島市側コース

粟柄越の県境から滋賀県側のマキノ高原スキー場の登山口までの下りの時間は約85分です。この道の途中には部分的に石畳が残る部分があります。

小説『湖の琴』

水上勉による小説『湖の琴』には、粟柄村出身の少女「さく」が登場します。彼女が滋賀県の賤ヶ岳山麓に奉公へ行く際、粟柄峠を越えるシーンが印象的で、その風景が詳細に描写されています。「白い一本道の両側の山壁には、葉を落とした欅の梢が針のように空へつき出ていて、肌寒い風が吹いていた」といった描写から、峠の自然の厳しさが伝わってきます。

旧跡など

粟柄関所跡

登山口に向かう途中、松屋集落から林道を経て粟柄関所跡の石碑が建てられています。この場所には、その歴史の名残を感じることができます。

峠の石仏

峠付近には約2.5mの大きな岩をくり抜いて彫られた石仏が安置されています。風化が進んでいるため、詳細は不明ですが、三面の顔を持つ馬頭観音と考えられています。荷馬の安全を守るための仏として祀られました。

道標

かつては存在していた道標ですが、昭和11年（1936年）の記録から、峠付近には「左山道 右高島越」と刻まれた道しるべがあったことがわかります。

脚注

出典

参考文献

• - 『越前若狭 峠のルーツ』、上杉喜寿、福井県郷土誌出版研究会、1983年7月20日発行

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