糞神島

糞神島

『糞神島』は、水木しげるによる日本の漫画作品であり、同作の舞台となる架空の島を指します。初出は1971年『漫画アクション』で、1973年には同名の短編集が刊行されました。この作品は、水木しげる独特の視点から、人間の文化や信仰を風刺的に描いた異色作として知られています。

概要

物語の舞台となる糞神島は、その名の通り糞を信仰する島です。主人公として登場する教師は、都会からこの島に派遣され、島の異様な風習に戸惑いながらも、自身の価値観とのギャップに苦悩します。作品全体を通して、糞が重要な要素として扱われており、島にそびえ立つ巨大な糞の山は、その象徴的な存在です。この糞の山は、単なる排泄物ではなく、島民にとっては祖先からの遺産であり、生活を支える糧でもあります。

水木しげるは、この作品を通して、文明社会の価値観を相対化し、土着の文化や信仰に対する問いを投げかけています。糞やオナラといった、タブー視されがちなものをあえて前面に出すことで、人間の本質や社会の矛盾を浮き彫りにしています。漫画研究家の中野晴行は、水木作品の特徴である「自然な糞の登場」が、この作品では極致に達していると評し、糞をこれほど壮大なスペクタクルに仕立てた作家は他にいないと絶賛しています。

糞神島の設定は、水木しげるがかつて生活を送ったラバウルの原住民の生活様式から着想を得たと言われています。彼らは、赤ん坊がどこでも糞をし、それを豚が食べるという自然な営みの中で生きていました。水木は、このような大らかな生き方に共感を覚え、糞をタブー視しない独自の文化を持つ島を創造しました。

主人公の教師は、作中で名前が明かされることはなく、解説書などでは「糞神島の先生」と記されています。髭を蓄えた彼の容姿は、現人神の末裔に似ているという指摘もあります。

あらすじ

都会から来たエリート教師が、文明から見捨てられた糞神島に派遣されます。島では、糞は信仰の対象であり、貴重な財産として扱われています。島の中央には、祖先が残した巨大な糞の山があり、それが木を育て、島民の食料となっています。島民にとって糞をすることは神の降臨を意味し、島中が糞だらけという状態です。教師は、このような悪習を改め、島に文明を植え付けようと、糞の山を便所に変えようと計画します。

しかし、工事によって地盤が緩んだ糞の山は崩壊し、島は島民もろとも糞の中に埋まってしまいます。この衝撃的な結末は、文明と土着の文化の対立や、人間の傲慢さを暗示していると言えるでしょう。

書誌情報

『糞神島』は、以下の短編集に収録されています。

『糞神島』（双葉社〈アクションコミックス〉、1973年6月）
『一番病 水木しげる幻想と怪奇(10)』（朝日ソノラマ〈サンコミックス〉、1981年11月）
『コロポックルの枕 水木しげる幻想怪奇(2)』（講談社〈KCスペシャル〉、1986年4月）
『怪奇館へようこそ 妖怪ワンダーランド(4)』（筑摩書房〈ちくま文庫〉、1995年7月）
『糞神島 他』（講談社〈水木しげる漫画大全集〉、2015年4月）

参考書籍

志村有弘『水木しげるの魅力』勉誠出版、2002年7月。
『妖怪まんだら 水木しげるの世界』世界文化社、2010年7月。
『「大 (Oh!) 水木しげる展」図録』朝日新聞社、2004年。

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