紀最弟

紀最弟（きのいやおと）は、平安時代初期に活躍した貴族であり、武人でもありました。右兵衛督・紀木津魚の十一男として生まれ、その生涯を朝廷に仕え、官位は従五位下、右兵衛佐にまで昇りました。

経歴

弘仁11年（820年）に内膳典膳に任じられたのが、記録に残る最初の官歴です。その後、承和年間に入ると、武官としてのキャリアを歩み始め、左衛門少尉、左衛門大尉と順調に昇進しました。承和12年（845年）には、従五位下に叙爵し、翌年の承和13年（846年）には右兵衛佐に任ぜられています。この頃から、彼の武人としての才能が朝廷内で高く評価されていたことが伺えます。

嘉祥3年（850年）には、仁明天皇の崩御後まもなく因幡権介を兼任し、仁寿2年（852年）には信濃介を兼ねるなど、地方官としても活躍しました。右兵衛佐の職務と並行して地方行政にも携わるという多忙な日々を送っていましたが、同年2月27日に58歳でこの世を去りました。最終官位は右兵衛佐兼信濃介従五位下でした。

人物

紀最弟は、並外れた武芸の腕前を持つ人物として知られていました。特に腕力は常人よりも遥かに強く、また、身軽で敏捷な動きも得意としていました。高いところに登ったり、深い水の中を歩き回ったりすることも難なくこなし、その身体能力の高さは周囲を驚かせたと言われています。

また、彼の武人としての活躍は、単に個人の武勇に留まらず、社会の治安維持にも大きく貢献しました。畿内の各地で頻発していた盗賊の追捕に尽力し、ついには盗賊がいなくなるほどにまで治安を改善させたという逸話が残っています。このことから、紀最弟は、武力だけでなく、その行動力と正義感によって、人々に安心をもたらした人物であったと考えられます。

官歴

以下は、『六国史』に記載されている紀最弟の官歴です。

弘仁11年（820年） 日付不詳：内膳典膳
承和3年（836年） 正月：左衛門少尉
承和7年（840年） 日付不詳：左衛門大尉
時期不詳：正六位上
承和12年（845年） 正月7日：従五位下
承和13年（846年） 5月23日：右兵衛佐
嘉祥3年（850年） 4月2日：兼因幡権介
仁寿2年（852年） 正月15日：兼信濃介。2月27日：卒去（右兵衛佐兼信濃介従五位下）

紀最弟は、平安時代初期において、武人として、また地方官として、その才能を十分に発揮し、人々に大きな影響を与えた人物でした。彼の人生は、当時の貴族社会における多様なキャリアパスを示唆しており、歴史を学ぶ上で重要な示唆を与えてくれます。

参考文献

* 森田悌『続日本後紀』（上下巻）、講談社〈講談社学術文庫〉、2010年

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