紅露みつ

生涯と経歴

紅露 みつ（こうろ みつ）は、1893年（明治26年）5月10日、現在の群馬県安中市にあたる碓氷郡坂本村に生まれました。東京の神田女学校で学びを終えた後、雑誌の編集に携わります。やがて、兄を通じて知り合った弁護士の紅露昭氏と結ばれました。夫である紅露昭氏は、衆議院議員を4期務めた政治家でした。

政治家への道

夫の紅露昭氏が戦後の公職追放の対象となったことを機に、みつ氏は自らが政治の道を志すことになります。1946年の総選挙で、夫の選挙区であった徳島県全県区から無所属で立候補し、激戦を制して初めての当選を果たし、衆議院議員として国政の舞台に立ちました。戦後間もない混乱期において、女性が政治家として活動すること自体が稀有な時代でした。

衆議院議員としては1期を務めましたが、その後民主党に加わるものの、翌1947年の総選挙では議席を失います。しかし、同年8月に行われた第1回参議院議員通常選挙の補欠選挙において当選し、再び国政へと復帰しました。この参議院議員としての活動が、紅露みつの政治家としてのキャリアの中心となります。

参議院での活動と貢献

参議院議員としては、国民民主党、改進党、日本民主党を経て自由民主党と、所属政党を何度か変えながらも、通算で4期にわたり議席を維持し、長きにわたり国政に携わりました。この間、紅露氏は様々な要職を務めました。

特に、在外同胞引揚問題に関する特別委員長（1949年）や、産業公害対策特別委員長（1965年）といった参議院内の重要な特別委員会の委員長を務め、戦後の混乱期における国民の生活問題や、高度経済成長期に顕在化した環境問題など、時代の課題に正面から向き合いました。また、政府においては、第2次鳩山一郎内閣の下で厚生政務次官を務めるなど、行政分野でもその手腕を発揮しました。

立法活動においてもその足跡を残しています。1961年には、女性政治家の先駆者である市川房枝氏らと共に、「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」の提案者の一人として名を連ねました。これは、公共の場での泥酔行為による迷惑を防止するための、現代にも繋がる法律です。

平和への強い願い

紅露みつの政治活動の根底には、深い悲しみと、そこから生まれた平和への強い願いがありました。一人息子である震一氏は、太平洋戦争末期に学徒出陣で軍務に服しており、広島市に駐屯していた際に原子爆弾の投下により命を落としました。この悲劇的な経験が、紅露氏にとって政治活動の最大の原動力となり、恒久的な平和の実現を強く希求する姿勢に繋がったと言われています。国政の場で、戦争の悲惨さや平和の尊さを訴え続けました。

晩年と評価

長年にわたり国政に貢献した紅露みつ氏は、1965年（昭和40年）に勲二等宝冠章を受章しました。また、政治家としての活動の傍ら、坂戸公顕氏との共編著として『女性の年鑑 人名篇 昭和36年版』（東京学風書院、1961年）を刊行するなど、女性の地位向上や社会参加にも関心を持っていたことがうかがえます。

1980年（昭和55年）12月20日、紅露みつ氏は87歳でその生涯を閉じました。その死没日をもって、政府から正四位に叙され、銀杯一組が贈られました。これは、長年の国政への貢献と、特に平和への強い思いを胸に活動したその功績に対する、国家からの敬意の表れと言えるでしょう。戦後の激動期から平和国家建設への歩みの中で、衆参両院で活躍し、特に参議院で重きをなした女性政治家として、その名は記憶されています。

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