納曽利

納曽利（なそり）

雅楽の曲目の一つに、納曽利（なそり）があります。これは別名として「落蹲（らくそん）」や「双龍舞（そうりゅうまい）」とも呼ばれ、「納蘇利」と表記されることもあります。雅楽の分類においては、比較的新しい時代の作品とされる「新楽（しんがく）」に数えられ、規模の小さな「小曲（しょうきょく）」に位置づけられます。楽曲の構成は、「破（は）」と「急（きゅう）」の二つの部分から成り立っています。

特徴と分類

納曽利は、雅楽の中でも右方舞（うほうまい）に分類され、主に朝鮮半島系の音楽に由来する高麗楽（こまがく）に属しています。使用される調子（ちょうし）は高麗壱越調（こまいちこつちょう）です。この曲は本来、二人で舞う二人舞（ににんまい）として演じられるのが一般的です。

人数による名称の違い

納曽利の興味深い点の一つに、舞い手の人数によって曲の名称が変わる慣習があります。基本的には二人舞が「納曽利」と呼ばれますが、舞い手が一人の場合は「落蹲（らくそん）」という別の曲名が用いられます。この「落蹲」という名称は、一人で舞う際に、舞人が舞台の中央で体を蹲（うずくま）らせる特徴的な所作を見せることに由来すると伝えられています。

ただし、この慣習には例外も存在します。特に奈良に伝わる南都楽所（なんとがくそ）においては、一般的な用法とは逆転しており、一人舞を「納曽利」、二人舞を「落蹲」と呼んでいます。これは地域による伝承の違いを示す貴重な例と言えるでしょう。

歴史と由来

納曽利の正確な起源や由来については、残念ながら明らかになっていません。しかし、歴史的には重要な役割を果たしてきたことがわかっています。かつては、雅楽の左方舞（さほうまい）を代表する勇壮な曲である「蘭陵王（らんりょうおう）」と対（つい）になって演じられる「勝負舞（しょうぶまい）」として位置づけられていました。

特に平安時代には、流鏑馬（やぶさめ）や競べ弓（くらべゆみ）といった勝負事の後、あるいは相撲の節会（すまいのせちえ）のような行事で舞われることがありました。この際、勝敗に応じて舞う曲が決められており、左方が勝利した際には「蘭陵王」が、そして右方が勝利した際にはこの「納曽利」が披露されたと伝えられています。これは、納曽利が単なる舞楽としてだけでなく、国家的な行事における象徴的な意味合いも持っていたことを示唆しています。

舞容と表現

舞の表現としては、二匹の龍（りゅう）が天空で楽しげに遊び戯（たわむ）れる様子を模（かたど）ったものとされています。この龍のイメージから、別名「双龍舞」とも呼ばれるのでしょう。躍動感と優雅さを兼ね備えた舞容は、見る者を魅了します。また、子供が舞う「童舞（どうぶ）」としても演じられることがあります。

装束

納曽利の装束もまた特徴的です。

舞楽面

舞い手の人数によって、着用する舞楽面（ぶがくめん）が異なります。二人舞の場合は、金青色（きんじょうしょく）の面を用います。一方、一人舞の「落蹲」として舞う場合は、紺青色（こんじょうしょく）の龍の頭部を模した、牙（きば）のある特徴的な面を着けます。どちらの場合も、手には銀色の細い棒状の桴（ばち）を携えます。

共通の装束

面の下に着用する装束は、人数に関わらず共通です。まず、黄色を基調とした薄地の絹織物（紗地）に、鳥の巣や蜂の巣のような丸い紋様である窠紋（かもん）の刺繍が施された袍（ほう）を身に纏います。その上から、毛皮の縁取りが特徴的な裲襠（りょうとう）を着装します。裲裠は袖がなく、頭から被る形式の貫頭衣（かんとうい）です。そして、腰には銀色の帯（ぎんたい）を締めます。全体的に華やかで力強い印象を与える装束です。

女性や少年少女の場合

女性や少年少女が納曽利を舞う場合もあります。この際には、男性の成人舞とは異なり、舞楽面は着用しません。代わりに、山吹の花を模した挿頭花（かざしはな）を挿した前天冠（まえてんがん）を着けます。また、場合によっては歌舞伎舞踊で見られるような舞台化粧を施すこともあり、性別や年齢に合わせた柔軟な対応がなされています。

納曽利は、その由来の不明瞭さとは対照的に、歴史的な背景、人数による名称の変化、そして龍を表現した舞容や独特の装束といった多様な要素を持つ、雅楽の中でも特に魅力的で奥深い一曲と言えるでしょう。

もう一度検索