納棺師

納棺師とは

納棺師は、旅立たれた故人様を棺にお納めする儀式を執り行う専門職です。この職業は、納棺夫、湯灌師、あるいは特別な技術を持つ復元納棺師などと呼ばれることもあります。かつてはあまり一般に知られていませんでしたが、映画『おくりびと』が公開されたことをきっかけに、多くの人々にその存在と仕事内容、そして葬儀産業における役割が広く認識されるようになりました。深い悲しみの中にある遺族に寄り添い、故人様との最後のお別れを安らかな形で見送るための重要な役割を担っています。

主な職務内容

納棺師の仕事の中心は、葬儀社からの依頼を受け、火葬までの間、故人様の尊厳を守りながら、遺族や親しい人々が安らかな姿でお別れできるよう、遺体の状態を管理し、見栄えを整えることです。具体的には、遺体の腐敗を遅らせるためドライアイスなどで冷却処置を施し、表情を穏やかに見せたり、不必要な臭いを抑えるための含み綿の処置を行います。また、故人様が生前愛用していた服や、経帷子といった衣装に着替えさせ、顔剃りや、生前の面影を再現する化粧を施します。突然の出来事で旅立たれた方など、遺体が損傷している場合は、遺族の心の負担を和らげられるよう、特別な復元処置を行うこともあります。

復元納棺師の役割

特に「復元納棺師」と呼ばれる方々は、事故や災害などで遺体が大きく損傷した場合に、高度な技術を用いて顔や体を丁寧に修復する活動を行います。東日本大震災の際、津波によって遺体が損傷した多くの犠牲者を、復元納棺師である笹原留似子氏らが修復し、遺族のもとへお返しした活動は、この仕事が単なる物理的な処置にとどまらず、遺族が故人様と尊厳ある最後のお別れをする機会を提供する、極めて人道的で重要な役割であることを示しました。

職業としての歴史的背景

納棺師という職業が商業的な形を取り始めたのは、比較的新しい出来事です。その起源には、1954年の青函連絡船洞爺丸沈没事故が深く関わっています。この事故で函館の海岸に流れ着いた多くの犠牲者の遺体について、地元の住民が葬儀業者からの依頼で遺体引き渡しを手伝ったことが契機となりました。この経験から、遺体の処置や納棺作業が商業として成り立つ可能性が認識され、葬儀業者の行っていた納棺作業を専門的に様式化する動きが生まれました。「納棺師」という言葉も、葬儀業者の下請けとしてこの仕事を行う人々が名乗るために造られたとされ、仏教をはじめとする特定の宗教や日本の伝統文化に直接的に根差しているわけではありません。

この職業について

納棺師という仕事は、故人様への最後の奉仕であると同時に、遺族の心の癒しにも繋がる重要な役割を担います。青木新門氏、永井結子氏、刈草亜美氏、山本浩二氏といった、この道に携わる人々が著書を通じて仕事への思いを発信しており、死と向き合う尊厳ある仕事として、社会的な理解も深まりつつあります。湯灌やエンバーミングといった関連技術も、納棺師の仕事と密接に関わっています。

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