素読

素読の概念と歴史

素読（そどく）は、漢文を学ぶための特異な方法で、内容の理解を試みることなく、単に文字を音読することに特化しています。これは、長年にわたり日本の教育システムに浸透してきた手法であり、暗唱を可能とするために繰り返し練習されます。この学習法は、素読み（すよみ、そよみ）とも呼ばれます。

素読の発展

素読は中世からその存在が認められ、特に江戸時代には幼少期の武士階級の子供たちの教育において広く利用されました。素読に使われた教材には、『小学』や『孝経』、さらには四書五経などの重要な文献がありました。これらの教材を声に出して読み上げることで、漢文に親しむことができると同時に、後の学習の基盤を形成していました。

時が経つにつれて、この学習法は他の言語の習得にも適用されるようになりました。特に蘭学（オランダ語）や英学（英語）などでは、外国語の文章をその内容を考慮せずに音読する素読法が取り入れられるようになりました。

制度化と教育への影響

特に1790年以降の寛政の改革に伴い、教育内容が朱子学に統一されたことで、素読は公的な教育課程において重要な役割を果たしました。この改革の一環として設立された昌平坂学問所では、「素読吟味」や「学問吟味」といった各種の試験が行われるようになり、武士階級の子弟たちがその能力を試される場ともなりました。

この結果、従来の学習方法にあった訓読のバリエーションや送り仮名の多様性が後退し、教材の画一化が進みました。素読吟味では、初学者の素読能力を評価することが重視され、これはまた漢文教育の課程でも重要な位置を占めるようになりました。

地方教育への普及

こうした制度化された教育は、地方の私塾や寺子屋にも影響を与えました。素読を重視した教育方針が地方にも広まり、そこでも漢文の習得が進むこととなりました。古典に則った教育を受けた生徒たちは、すでに身に付けた素読の能力を活用し、さらに深い学びを進めていったのです。

参考文献

• - 齋藤希史『漢文脈と近代日本』KADOKAWA、2014年（原著2007年）。
• - 中村春作『江戸儒教と近代の「知」』ぺりかん社、2002年。
• - 平賀優子「訳読・音読へと続く「素読」の歴史的変遷」『慶應義塾外国語教育研究』第11巻、2014年。
• - 三松国宏「江戸時代後期における素読による漢文学習の効果に関する覚書」『法政大学多摩論集』第39巻、2023年。

関連項目

• - シャドーイング

このように、素読は単なる音読のテクニックに留まらず、歴史的背景と教育の発展に寄与した重要な手法であることがわかります。

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