組織
培養とは、
生物学において、多細胞生物の組織を、生体外で人工的に維持・
培養する技術のことです。主に
動物や
植物を対象とし、細胞や
胚、葯、
花糸、カルスなどが用いられます。ただし、
菌類や
藻類のような組織
分化の低い生物の
培養は、通常、組織
培養とは呼ばれません。
組織培養の目的
組織
培養の主な目的は以下の通りです。
研究材料の確保: 細胞や組織を用いた研究に必要な材料を安定的に供給します。
疫学的調査: 病原体の検出や薬剤耐性の評価など、疫学的な調査に活用します。
多量繁殖: 特定の形質を持つ個体を大量に増殖させ、農業や園芸分野での利用につなげます。
組織培養は、シャーレや試験管、培養機などの容器内で行われます。培養液(培地)を使用し、組織の成長に必要な栄養、ホルモン、温度、光などを適切な条件に維持します。培養中にカビや雑菌が混入するコンタミネーションは大きな問題となるため、サンプルの選定や殺菌・滅菌処理が重要です。
動物の組織培養は、主に細胞や胚を対象として行われます。研究目的のほか、再生医療や創薬分野などへの応用が期待されています。
植物細胞には分化全能性があるため、動物よりも多様な組織培養法が開発されています。主な方法として、以下のものがあげられます。
器官培養: 葉などの器官を
培養する方法です。
茎頂培養: 茎の先端部分(生長点)を培養し、ウイルスフリーの個体を得るのに用いられます。
胚培養: 未熟な
胚を
培養する方法です。
葯培養: 花粉が入っている葯を培養し、半数体の植物を作出します。
プロトプラスト培養: 細胞壁を取り除いたプロトプラストを
培養する方法です。
植物の組織
培養は、挿し木や株分けといった通常の
クローン繁殖と比較して、突然変異が起こりやすい傾向があります。
商業利用
組織
培養は、農業や園芸分野において、無病個体の作出や新品種開発、大量増殖に利用されています。
無病個体の作出: ウイルスフリーの種苗を育成し、病害による損失を減らします。
新品種開発: 培養中に生じる変異を利用し、新しい品種を生み出します。
大量増殖: 希少な植物や有用な形質を持つ個体を効率的に増殖します。
特にラン科植物におけるメリクロン培養が先駆けとなり、イチゴ、ジャガイモ、カーネーションなど多くの作物の種苗生産に活用されています。先進国では、サツマイモ、ジャガイモ、サトイモ、サトウキビ、イチゴ、カーネーション、ユリ、キク、ランなどの栄養繁殖性の草本性作物のほぼ100%が、組織培養由来の種苗であると考えられています。
しかし、オートクレーブやクリーンベンチなどの高価な設備が必要となるため、発展途上国では導入が難しいのが現状です。また、希少植物の保全にも組織培養は役立っており、ユリなどの自生地で減少した植物の増殖に利用されています。
培養方法の段階
組織培養は、一般的に以下の4つの段階に分けられます。
1. 初代培養: 植物体から無菌的な環境下で組織を採取し、培養を開始する段階です。
2. 継代培養: 培養した組織を増殖させる段階です。
3. 大量増殖: 大量に組織を増殖させる段階です。
4. 順化: 増殖した種苗を、屋外環境に適応させる段階です。
大量増殖が必要ない場合は、継代培養や大量増殖の段階を省略することもあります。茎頂培養は初代培養時に、遺伝子組み換えやプロトプラスト培養は継代培養時に行われることが多いですが、必ずしもそうではありません。
まとめ
組織培養は、生物学、医学、農学など幅広い分野で活用される重要な技術です。組織培養の発展により、研究の進展、作物の生産性向上、希少植物の保全などが期待されています。
関連項目
培養細胞
医学
農学
クローン
茎頂
培養
外部リンク
*
【茎頂培養】 信州大学