経ヶ岳 (長野県)

経ヶ岳：霊峰と絶景の調和する山

経ヶ岳（きょうがたけ）は、標高2,296mを誇る木曽山脈（中央アルプス）北端の山です。その山頂には、古くから信仰の対象とされてきた石仏や石塔が静かに佇み、神聖な雰囲気を醸し出しています。日本の『経』のつく山々の中でも最高峰であり、日本二百名山にも選定されている、由緒ある山でもあります。

経ヶ岳の概観と植生

木曽山脈の南、権兵衛峠（標高1,523m）を境に独立峰としてそびえ立つ経ヶ岳は、山頂に2等三角点が設置されています。山頂周辺は背の高いシラビソなどの針葉樹林に覆われていますが、登山道沿いの南斜面にはクマザサの群生地やカラマツの植林地が広がり、変化に富んだ植生を見せています。山麓の伊那市には、羽広自然遊歩道と経ヶ岳自然植物園があり、登山前のウォーキングや植物観察に最適です。

山名の由来と伝承

経ヶ岳という山名は、古くから伝わる『羽広山仲仙寺縁起』にその由来が記されています。弘仁7年（815年）、慈覚大師（円仁）が霊夢によって信濃国に下向し、霊木を得て十一面観音像を刻みました。そして、その木片に経典を書き写し、経塚に納めたことから、この山が「経ヶ岳」と呼ばれるようになったと伝えられています。また、別名「泣面山」とも呼ばれており、夕暮れ時に山に差し込む日が沈むと、辺りが急速に暗くなることから、子供たちが恐れて泣きながら帰ったという言い伝えが残されています。この別名は、自然の厳しさと畏敬の念を伝えるものとして、現在も語り継がれています。

登山ルートと展望

経ヶ岳への登山ルートは、主に伊那市の仲仙寺から始まるルートが利用されています。このルートは山小屋や水場がないため、十分な装備と計画が必要です。4合目では、南箕輪村の林道大泉線の大泉所ダムからのルートと合流します。5合目付近はカラマツの植林地帯となっており、7合目から9合目の稜線に至ると視界が開け、八ヶ岳、南アルプス、伊那谷、木曽駒ヶ岳、御嶽山といった雄大な景色がパノラマのように広がります。山頂からは展望は得られませんが、周囲の山々を間近に感じられる、独特の登山体験が可能です。毎年5月には、南箕輪村立南箕輪中学校の競歩大会が開催され、生徒たちが経ヶ岳に挑戦しています。

2019年には、長らく使われていなかった権兵衛峠からのルートが有志の手によって復活しました。仲仙寺からのルートに比べて距離が短く、標高差も少ないため、多くの登山者がこのルートを利用するようになっています。また、横川渓谷から黒沢谷沿いに登るルートも存在しますが、上部はクマザサに覆われた不明瞭な道であるため、利用者は少ないのが現状です。

イベントと周辺情報

2015年からは、経ヶ岳バーティカルリミットという、21kmのロングコースと12kmのショートコースでタイムを競う山岳レースが開催されています。このイベントは、経ヶ岳の魅力を多くの人に知ってもらう機会となっています。

経ヶ岳周辺には、黒沢山や坊主岳、そして木曽駒ヶ岳など、魅力的な山々が数多く存在します。これらの山々を巡ることで、中央アルプスの豊かな自然を満喫できます。また、経ヶ岳の源流となる河川には、横川川、大泉川、小沢川（天竜川の支流）、奈良井川（信濃川の支流）などがあります。

参考文献

経ヶ岳に関する情報は、以下の書籍にも掲載されています。これらの書籍は、経ヶ岳の自然や歴史、登山ルートに関するより詳細な情報を知る上で役立ちます。

『三省堂 日本山名事典』三省堂
『日本の山1000』山と溪谷社
『新日本山岳誌』ナカニシヤ出版
『ヤマケイ　アルペンガイド　中央アルプス　御嶽山・白山』山と溪谷社
『山と高原地図 木曽駒・空木岳 中央アルプス2010』昭文社
『新・分県登山ガイド(改訂版)　長野県の山』山と溪谷社
『(改訂新版)　名古屋周辺の山』山と溪谷社
『東海・北陸の200秀山　下(東海・信州編)』中日新聞社
* 『中央アルプスの山旅　地形・地質観察ガイド』飯田市美術博物館

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