統制の所在

統制の所在（Locus of control）

統制の所在とは、個人が自身の人生において経験する出来事の結果について、その原因を自分自身の内側（個人的な能力や努力など）に求めるか、あるいは外側（運、他者、状況など）に求めるか、という信念の程度を示す心理学的な概念です。これは、1954年に心理学者のジュリアン・ロッターによって提唱され、以来、人格心理学の中心的な考え方の一つとなっています。人々がどれだけ自分自身で物事を制御できると信じているか、または外部の力に影響されると信じているか、その傾向を表すものです。

統制の所在は、大まかに「内部統制の所在」と「外部統制の所在」の二つに分けられます。内部統制の所在が強い人は、自分の行動が結果を左右すると考えます。例えば、試験で良い点数を取った場合、それは自分の努力や能力のおかげだと考えます。一方、外部統制の所在が強い人は、結果は自分では制御できない外部要因によると考えがちです。同じ試験で良い点数を取っても、それは「運が良かった」「先生が優しかった」など、自分以外の要因に理由を求めます。

ロッターは、統制の所在を内部か外部かのどちらかにきっぱりと分かれる二元論ではなく、連続体として捉えるべきだと強調しました。また、内部と外部の両方の特性を併せ持つ人もおり、これはバイローカルと呼ばれ、状況に応じて柔軟に対処できる利点を持つことも指摘されています。

歴史的背景

この概念は、ロッターの社会的学習理論における人格理論にその起源を持ちます。これは、様々な状況で問題を解決するための一般的な期待、つまり、特定の行動が特定の強化（報酬や罰）につながるという期待が広範な状況に一般化されることの一例として位置づけられました。ロッターは1966年に、それまでの研究を集約した論文を発表し、この概念を広く知らしめました。

その後、ハーバート・M・レフコートは強化の統制に関するこの一般化された期待を「知覚された統制の所在」と定義しました。アルフレッド・アドラーの研究に影響を探る試みもありますが、直接的にはロッターとその研究室の成果が基盤となっています。ロッターの学生であるウィリアム・H・ジェームズは、「典型的な期待のシフト」（成功・失敗の後に同様の結果を予測）と「非典型的な期待のシフト」（成功・失敗の後に異なる結果を予測）という概念を研究し、前者が能力への帰属（内部）、後者が運への帰属（外部）と関連付けられる可能性を示唆しました。

バーナード・ワイナーは、統制の所在の概念に安定性・不安定性という次元を追加し、原因が個人の内側にあっても（努力など）、それが常に制御可能とは限らないことを明らかにしました。例えば、努力は一時的なもの（不安定）とも見なせるし、継続的な特性（安定）とも見なせます。また、能力は一般的に安定した内部の原因、課題の困難さは安定した外部の原因、運は不安定な外部の原因と見なされます。

測定と関連概念

統制の所在を測定するために、ロッターが開発した強制選択式の尺度をはじめ、様々な質問票が開発されています。例えば、成人向けのダットワイラー内部統制指標（ICI）や、子供向けの尺度などがあります。これらの尺度は、個人の統制に対する信念の傾向を数値化することを目的としています。

統制の所在は、関連する他の心理学的な概念、特に「帰属スタイル」や「自己効力感」と区別される必要があります。帰属スタイルは、過去の出来事に対する原因の特定方法（例：成功を自分の能力に、失敗を外部に帰属させる）に関連しており、内部性・外部性に加えて、安定性・不安定性、全体性・特異性といった次元を含みます。一方、自己効力感は、特定の課題や状況において、必要な行動を成功裏に実行できるという自身の能力に対する信念を指します。自己効力感はより特定の状況に焦点を当てている点で、統制の所在よりも限定的な概念と言えます。

様々な分野への応用

統制の所在の概念は、心理学の広範な分野に応用されています。特に健康心理学では、健康に関する行動（禁煙、運動、食事など）や病気の管理（糖尿病、高血圧など）との関連が研究されています。内部健康統制の所在を持つ人は、自身の健康維持に積極的な行動をとる傾向がありますが、特定の研究ではその関連性が必ずしも一貫しているわけではありません。強力な他者（医師など）や運に健康の統制を求める尺度も開発されており、健康に関する信念の多様性が示されています。

教育心理学においては、内部統制の所在を持つ学生は学業成績が良い傾向が示されています。自分の努力が結果につながると信じるため、学習に意欲的に取り組むと考えられます。産業・組織心理学では、内部統制の所在を持つ従業員が仕事の変更に積極的であることなどが報告されています。

他にも、宗教心理学（宗教への関わり方と統制の所在の関係）、消費者行動（体重統制の所在が広告への反応に影響）、政治イデオロギー（内部統制者は共和党、外部統制者は民主党を支持する傾向）、ギャンブル行動（外部統制者はよりリスクの高い賭けを好む傾向）など、多様な分野で応用研究が行われています。

発達と個人差

統制の所在は、個人の発達過程や社会的な背景によって影響を受けます。一般的に、温かく支援的な家庭環境で育ち、努力が報われる経験を多く積んだ子供は、内部統制の所在を発達させやすい傾向があります。一方、低い社会経済的地位や、制御不能な出来事を多く経験する環境は、外部統制の所在を強める可能性があります。

年齢に関しても研究があり、一般的には中年期まで内部性が増す傾向が示唆されていますが、研究結果は一様ではありません。また、成人における統制の所在に有意な性差は確認されていませんが、特定の領域（学業など）においては性別による違いが見られるという報告もあります。異文化間での研究では、日本人はアメリカ合衆国の人々よりも外部統制の所在が強い傾向があるなど、文化や地域によっても違いが見られます。

ストレスとの関連

統制の所在は、ストレスへの対処とも関連が深いです。外部統制の所在が強い人や自己効力感が低い人は、病気に関連する心理的な苦痛を感じやすい傾向があります。外部の影響に脆弱であると感じやすいため、ストレスに対してより反応的になる可能性があります。自分の健康問題を制御できると信じている（内部統制の所在を持つ）人は、困難な状況下でも心理的な健康を保ちやすいことが示されています。

統制の所在は、個人の行動、動機づけ、感情、そして人生の結果に対する考え方に深く関わる重要な概念です。その理解は、教育、健康、組織、さらには社会全体の課題に取り組む上で役立ちます。

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