絵合

『源氏物語』絵合：帝の寵愛と絵画の競演

『源氏物語』五十四帖中、第十七帖にあたる「絵合」。この巻は、冷泉帝の寵愛を巡る、斎宮女御と弘徽殿女御の競争を、絵画という華麗な舞台で描いた、息詰まる展開が特徴です。古くから、天徳内裏歌合が「絵合」の準拠とされています。

物語は、光源氏が31歳の春を迎えるところから始まります。光源氏の後見のもと、斎宮が内裏に入り、女御となりました。若い冷泉帝は当初、年上の斎宮女御になじめなかったものの、やがて絵画という共通の趣味を通じて、深い愛情を抱くようになります。

一方、娘を弘徽殿女御として既に帝の許へ入内させていた権中納言（頭中将）は、この状況を危惧します。彼は、帝の寵愛を取り戻すべく、豪華絢爛な絵画を収集し、帝の気を引こうと必死の努力を払います。

この権中納言の動きは、宮廷全体に絵画への関心を高める結果となります。人々はこぞって絵画を鑑賞し、批評し合うようになり、やがて藤壺中宮の御前で物語絵合わせが行われます。

この機運を受けて、帝の御前でも梅壺（斎宮女御）と弘徽殿（弘徽殿女御）による大規模な絵合せが開催されました。古今東西の名画が多数集められ、その豪華絢爛さ、そして競い合う女御たちの緊張感に満ちた雰囲気は、宮廷全体を熱狂の渦に巻き込みます。

そして、いよいよ最終勝負。梅壺方が、光源氏が描いた「須磨の絵日記」を披露します。この絵日記は、その精緻な描写と、須磨での源氏の悲恋を繊細に描いた感動的な内容で、観る者すべての心を打ちました。

その圧倒的な美しさ、そして物語の持つ力によって、梅壺方は見事勝利を収めます。「須磨の絵日記」は、単なる絵画作品ではなく、源氏の過去の経験、そして現在の心情を凝縮した、比類なき傑作として、物語に深い余韻を残します。

絵合せの後、源氏は藤壺に「須磨の絵日記」を献上します。そして、彼はいつか訪れるであろう出家の日を予感し、嵯峨野に御堂の建立を始めます。この行為は、源氏の精神的な変化、そして彼の未来への不安や決意を象徴的に表しています。

「絵合」は、帝の寵愛という権力争いを背景に、絵画という芸術を通して、登場人物たちの内面世界を鮮やかに描き出しています。華麗な絵画の競演と、それぞれの思惑が複雑に絡み合う、見どころ満載の巻と言えるでしょう。渋谷栄一による定家本の本文・現代語訳、青空文庫の与謝野晶子訳など、様々な資料を通して、この魅力的な物語の世界を深く探求することができます。

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