頭中将

頭中将：天皇の側近と源氏物語の登場人物

頭中将（とうのちゅうじょう）は、平安時代の律令制下において、蔵人頭と近衛中将を兼任した者に与えられた通称です。位階は四位で、殿上人（廷臣）に属し、宮中における重要な地位を占めていました。

蔵人頭と近衛中将の兼任

蔵人頭は、蔵人所の長官であり、天皇の政務や宮中儀礼に深く関与しました。定員は2名で、「両頭」と呼ばれていました。そのうち、武官出身の蔵人頭は近衛府の次官である近衛中将が兼ねるケースが多く、これが「頭中将」と呼ばれる所以です。一方、文官出身の蔵人頭は弁官（大弁または中弁）から選ばれ、「頭弁」と呼ばれていました。

藤原俊憲の『貫頭秘抄』によれば、頭中将は宮中における側近奉仕を、頭弁は天皇と太政官間の政務連絡を担当したとされています。つまり、頭中将は天皇の身近で仕え、重要な情報を直接的に扱う立場にあったと言えるでしょう。

高官への登竜門

頭中将の地位は、将来の高官への登竜門として機能していました。上流貴族の子弟は、近衛少将から近衛中将に昇進した後、蔵人頭を兼ねて頭中将となり、その後、公卿に昇進していくケースが少なくありませんでした。

江戸時代に入ると、近衛（権）中将が蔵人頭を兼ねて頭中将となる道筋が定着しました。ただし、大臣家からの任命は例外的なケースに限られ、多くは羽林家から選ばれていました。

一方で、頭中将の地位には困難も伴いました。事務に長けた頭弁や五位蔵人との関係は、必ずしも良好とは限らず、中には頭中将の職務の重圧によって命を落とした者もいたと伝えられています。そのため、頭中将の中には、頭弁や五位蔵人を懐柔することで、職務を円滑に進めようとした者もいたようです。

源氏物語における頭中将

『源氏物語』にも「頭中将」が登場します。これは光源氏の年長の従兄で、親友であり、義兄であり、恋の競争相手であり、さらには政敵でもありました。物語では、年齢や経歴に応じて様々な官職名で呼ばれており、一貫して「頭中将」と呼ばれているわけではありません。しかし、重要な場面である第4帖「夕顔」で頭中将の地位にあったことから、後世の読者によって「頭中将」として認識されるようになったと考えられます。

この物語の頭中将は、藤原氏出身で、華やかな容姿と文雅な教養を備えた人物として描かれています。光源氏と並び称される貴公子であり、しばしば同じ女性を巡って争う関係にありました。また、夕霧を可愛がり、娘の雲居の雁との恋愛を激しく反対するなど、複雑で魅力的な人物像が描かれています。ただし、作中での描かれ方は一貫しておらず、研究者によっては分析に値しないという厳しい評価もあります。

頭中将の家族

頭中将の正妻は桐壺帝の右大臣の四の君、側室には雲居の雁の母と夕顔などがいます。彼は多くの子供を持ち、その中には、後に皇族となった人物も含まれています。家族関係も物語の重要な要素となっており、複雑な人間関係が描かれています。

まとめ

頭中将は、平安時代の宮廷において重要な役割を担った官職であり、同時に『源氏物語』においても重要な登場人物として登場します。その歴史的役割と、物語における人物像を理解することで、平安時代の政治や社会、そして文学の世界をより深く知ることができます。

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