絵本合法衢

絵本合法衢（えほん がっぽうがつじ）

『絵本合法衢』は、四代目鶴屋南北が手掛けた歌舞伎の狂言で、通称「立場の太平次」として知られています。初演は1810年6月6日、江戸市村座で行われ、全七幕から成るこの作品は、仇討ちをテーマにした劇として、多くの観客に愛されてきました。この演目は、大阪天王寺に実際に存在した合邦辻閻魔堂を舞台にしており、作中では悪事を働く極悪人たちが描かれています。主役の左枝大学之助と立場の太平次は、読本『絵本合邦辻』をもとにしたキャラクターで、彼らの悪行が物語の中心となっています。

この作品の魅力は、単に悪人たちの活躍を描くことにとどまらず、緻密な構成と古典的な仇討ち物語へのオマージュにあります。南北は、先人たちの作品から影響を受けながらも、その独自の視点で仇討ちの物語を再構成しました。特に『忠臣蔵』の要素を織り交ぜることで、観客に新たな視点を提供し、仇討ち狂言の傑作とも称されました。

あらすじ

第一幕: 多賀家水門口の場

物語は、多賀明神の場から始まります。悪党である関口多九郎が、番人を殺し、お家の宝物である霊亀の香炉を盗むところから幕が開きます。彼は多賀家の一族に仕える左枝大学之助の部下であり、この行動が物語の発端となります。その後、道具屋である与兵衛とその妻お亀が、危機に遭遇し、大学之助から無理やり連れ去られそうになるものの、家臣の高橋瀬左衛門に救われます。しかし、大学之助はお亀の美貌を目当てに再度何かを企てます。

第二幕: 鷹野の場

大学之助は鷹狩りに繰り出すものの、村の住民たちから非難を浴びます。彼の行動が一連の悲劇を引き起こし、周囲との関係が悪化していきます。より悪化する事態の中で、数々の事件が連鎖的に起こる展開が続きます。

第三幕: 多賀御殿の場

多賀家では、大学之助の仲間が彼の主君の計略を実行に移そうとし、立場の太平次との間で策略や裏切りが展開されます。

第四幕以降: 物語の進展

物語は、次第に多くの人物が命を落とし、仇討ちの火花が飛び散る緊迫した展開となります。大学之助とその仲間たちの悪行は、周囲の人々に大きな影響を与えることが明らかになります。

作品の評価と影響

『絵本合法衢』は、その暴力的で生々しい内容と同時に、複雑な人間関係と感情を扱う深みから、仇討ち狂言の傑作として評価されています。特に初演時に演じた五代目松本幸四郎の演技は、現在まで語り継がれています。この作品は、同時代の他の作品と異なり、悪人たちが主役となることで新たな視点をもたらしましたが、その後の高尚化の流れの中で忘れ去られることもありました。

南北の作品は、現代でも多くの劇団で取り上げられ、新たな演出や解釈が施されています。八代目松本幸四郎や、片岡仁左衛門といった著名な俳優たちがこの作品に挑戦し続けていることからも、その持つ魅力の高さが伺えます。最終的には、仇討ちと人間の欲望、悲劇的な結末が巧みに描かれ、観客を深く考えさせる作品として位置づけられています。

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