縦隔

縦隔：心臓を包む重要な空間

胸部の中央、左右の肺と背骨（胸椎）、胸骨に囲まれた部分を縦隔（じゅうかく）といいます。上部は首（頚部）と繋がり、下部は横隔膜まで広がっています。この縦隔には、心臓をはじめ、生命維持に不可欠な多くの臓器や血管、リンパ節などが集まっています。

縦隔の区分：解剖学的区分の複雑さ

縦隔の解剖学的区分は、複数の成書によって異なっており、明確な境界線が存在するわけではありません。そのため、以下の区分は便宜的なものであることを理解しておく必要があります。

1. 前縦隔: 心臓の前面、上部の大血管の前面、および心臓と横隔膜の接する部分を含みます。この領域では、胸腺由来の腫瘍（胸腺腫など）、甲状腺組織の異常、胚細胞腫瘍、神経内分泌腫瘍などが発生しやすい傾向があります。また、胸腺嚢胞、心膜嚢胞、奇形腫、リンパ管腫などの嚢胞性疾患もみられます。

2. 中縦隔: 下行大動脈以外の主要な血管、心臓、気管、気管支などを含み、心臓の前面から食道より腹側の領域です。この部位では、前述の臓器やリンパ節に由来する病変が多くみられます。嚢胞性疾患としては、前腸嚢胞がよくみられます。

3. 後縦隔: 食道およびその背側、習慣的に縦隔に含まれる傍脊椎溝を含みます。傍脊椎溝では、神経系の腫瘍（神経性腫瘍）、髄膜瘤などが発生しやすいです。神経腸嚢胞を伴うことも多くあります。

縦隔の嚢胞：多様な種類

縦隔にできる嚢胞は、単胞性と多胞性に分類されます。

単胞性嚢胞: 前腸嚢胞（気管支嚢胞、食道重複嚢胞、神経腸嚢胞）、心膜嚢胞、心膜憩室、胸腺嚢胞、膵偽嚢胞など
多胞性嚢胞: リンパ管腫、奇形腫など

これらの嚢胞は、それぞれ異なる発生機構や臨床症状を示します。

体腔の連続性：気体の移動

人体には、腹膜腔、胸膜腔、心膜腔という3つの独立した体腔が存在します。通常、これら体腔間には交通はありません。ただし、女性の腹膜腔は卵管を通じて外界と繋がっています。

一方、後腹膜腔、縦隔、胸膜外腔、腹膜外腔、皮下組織などは互いに連続しています。そのため、気管や腸管内の圧力が高まったり、ステロイド薬を使用している場合などは、空気（ガス）がこれらの体腔間を移動する「エアーリーク」が起こりやすくなります。

例えば、間質性肺気腫、気胸、縦隔気腫、心嚢気腫、腹膜気腫、後腹膜気腫、腸管壁気腫、皮下気腫、全身空気塞栓などは、互いに移行しやすいことが知られています。これは、気体の移動経路が連続しているためです。

まとめ

縦隔は、心臓や大血管など重要な臓器が集まる胸部の中央の領域です。その解剖学的区分は曖昧ですが、前縦隔、中縦隔、後縦隔に大別されます。それぞれの領域で発生しやすい疾患も異なり、嚢胞性疾患も多様です。また、縦隔は他の体腔と連続しているため、気体の移動も起こりやすくなっています。これらの理解は、胸部疾患の診断や治療に重要です。

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