羊飼いの礼拝 (クラナッハ)

『羊飼いの礼拝』（独：Anbetung der Hirten）は、ドイツ・ルネサンスの巨匠ルーカス・クラナッハ（父）が1515年から1520年頃に制作した、板上の油彩画です。この作品は、キリスト降誕の場面を描いたもので、現在はドレスデンのアルテ・マイスター絵画館に所蔵されています。

作品の構成

この絵画は、夜景の中で聖母マリアが幼子イエス・キリストの前で身をかがめて祈る姿を中心に描かれています。聖ヨセフは、ロウソクを持って聖母子を見守るように立っており、画面の主な光源は、幼子イエスの寝床であるまぐさ桶から発せられる光です。イエスは、翼を持つ智天使たちに囲まれ、聖母の光輪と対になるように、干し草の寝床に横たわっています。

画面左上には、月明かりに照らされた風景が広がっており、よく見ると、天使ガブリエルが月の姿で現れ、三人の羊飼いへキリストの降誕を告げている場面が描かれています。そして、同じ三人の羊飼いが、画面右側の柵の後ろに立ち、聖家族を見つめている構図となっています。

作品の背景

この作品が描かれた時代は、マルティン・ルターが福音書の光について語り始め、ロウソクを啓示の比喩として用いた時期と重なります。ルターは聖書を翻訳し、その教えを広める中で、クラナッハに聖書のための挿絵を依頼しました。その挿絵の中には、ロウソクが度々登場しています。クラナッハは、同じ場面を簡略化して、ルターの『受難のキリストとアンチ・キリスト』のための木版画にも取り入れています。

作品の来歴

『羊飼いの礼拝』は、かつてリヒャルト・フォン・カウフマンのコレクションに収蔵されていました。1917年に、カウフマン邸から美術館によって購入されました。第二次世界大戦後、1945年には旧ソ連によって譲渡の要求がなされましたが、1955年にアルテ・マイスター絵画館へと返還され、現在に至っています。

この作品は、ルネサンス期の宗教画における光の表現、宗教改革の影響、そして、画家の卓越した技術が組み合わさった傑作として、今日でも多くの人々を魅了し続けています。

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