美しい夏

美しい夏（うつくしいなつ）

「美しい夏」は、日本のアイドル歌手として絶大な人気を誇った桜田淳子が、1980年4月1日にリリースした通算30枚目となるシングルレコードです。昭和のアイドルシーンにおいて、山口百恵、森昌子と共に「花の中三トリオ」としてデビューした彼女の、円熟期にあたる時期に発表された楽曲として知られています。

楽曲制作の舞台裏

このシングルの制作過程には、興味深いエピソードが存在します。当初、表題曲として予定されていたのは、前作「LADY」も手がけたシンガーソングライター、尾崎亜美氏による「ギヤマンドール」という楽曲でした。実際に、発売日が告知される段階まで進行していましたが、最終的に急遽「美しい夏」へと変更されることになります。この変更劇によりシングル化されなかった「ギヤマンドール」は、後に別のアイドル歌手である松本伊代氏に提供され、彼女のセカンドアルバム『Sugar Rain』（1982年）に収録され、楽曲自体は陽の目を見ています。シングルの発売直前に楽曲が変更されるというのは異例であり、当時の状況を窺わせる出来事でした。

歌詞に込められたメッセージ

「美しい夏」の歌詞は、桜田淳子さん自身が原案を手がけたことでも知られています。その原案をもとに、多くの歌謡曲のヒットを生み出した作詞家の康珍化氏が作詞を担当しました。歌詞の内容については、リリース当時から様々な憶測を呼び、特に注目されたのは、同時期に芸能界からの引退を控えていた山口百恵さんへの思いがモチーフになっているのではないか、という見方でした。桜田淳子さんと山口百恵さんは、デビュー以来、同じステージに立つことが多く、ライバルとして比較されることも少なくありませんでした。長年にわたり共に活動してきた盟友이자良きライバルへの、別れを惜しむ気持ちや、過ぎ去りし日々への郷愁などが込められているのではないか、と解釈されたのです。

このような解釈は、実際のメディアでの表現によっても強調されました。本楽曲を代表的な音楽番組「夜のヒットスタジオ」で披露した際、番組側が演出として、桜田淳子さんの歌唱中に、山口百恵さんの過去の映像を随所にインサートするという試みを行いました。これは、意図的に二人の関係性や時代の流れを強調する演出であり、多くの視聴者に歌詞の「百恵説」を強く印象づけることとなりました。

音楽的な特徴とメディアでの活躍

「美しい夏」の作曲は馬飼野康二氏、編曲は船山基樹氏が担当しています。馬飼野氏による叙情的で美しいメロディーラインと、船山氏による繊細かつ壮大なアレンジが、康珍化氏の紡いだ情感豊かな歌詞の世界観を見事に引き立てています。

本楽曲は、その年の年末、1980年12月31日に放送された「第31回NHK紅白歌合戦」でも披露されました。紅白歌合戦という大舞台での歌唱は、楽曲の知名度をさらに高め、多くの人々の心に深く刻まれる機会となりました。

シングル収録曲

「美しい夏」シングルレコードには、以下の2曲が収録されています。

1. 美しい夏 (3分24秒)
作詞：康珍化
作曲：馬飼野康二
編曲：船山基樹

2. ミスター・ブルー・スカイ (3分40秒)
作詞：西尾尚子
作曲：Kenny Klouse
編曲：松井忠重

関連情報

「美しい夏」は、桜田淳子の数々のベストアルバムやコンピレーション盤に収録されており、中でも『GOLDEN☆BEST 桜田淳子 コンプリート・シングル・コレクション』などで聴くことができます。また、本楽曲がリリースされた1980年は、日本の音楽シーンにおいて多様な変化が見られた年であり、当時の歌謡曲の傾向や桜田淳子の音楽性の変化を考察する上で、重要な位置を占める一曲と言えるでしょう。

「美しい夏」は、単なるヒット曲としてだけでなく、その制作背景のドラマ、歌詞にまつわる深い解釈、そして時代の象徴である二人のアイドルの関係性を映し出すエピソードなど、多角的な魅力を持つ楽曲として、今なお語り継がれています。

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