美しい星 (小説)

美しい星

『美しい星』は、三島由紀夫によるSF小説で、1962年に発表されました。この作品は、空飛ぶ円盤や宇宙人という異色の題材を取り入れつつ、当時の冷戦と核兵器による人類滅亡の不安を描いています。ストーリーの中心は、宇宙的観点から人間の存在意義や未来について考察することにあります。

発表経過

小説は1962年の文芸雑誌『新潮』に連載され、同年に新潮社から単行本として刊行されました。この年は、三島の長男の誕生も重なっており、彼にとって特別な年だったと言えます。また、翻訳版はスウェーデンや中国などでも出版され、英語訳の実現には至りませんでしたが、三島は英訳を強く望んでいたようです。

あらすじ

物語は、埼玉県飯能市に住む大杉一家に焦点を当てています。彼らは、宇宙から来た火星人や木星人、水星人、金星人であると自認しながら、世間にその素性を隠して生きています。ある晩、家族は「宇宙友朋会」を組織し、世界平和を目指す活動を始めます。しかし、彼らの前に現れたのは、宇宙人であることを自覚した他の者たちであり、特に仙台からやってきた羽黒真澄助教授たちが彼らの敵として立ちはだかります。

物語は、重一郎が壮大な議論をし、各キャラクターがそれぞれに自らの使命を見出す過程で進行します。特に重一郎は、「人間が内部の空虚の連帯によって充実すること」が人類を救う鍵であると唱えます。しかし、彼が胃がんにかかり、苦悩の末に宇宙の声に導かれて動き出す事態に発展します。

キャラクター

登場人物は多彩であり、父の重一郎は火星人としての苦悩を抱え、家族を守るために活動を続けます。妻の伊余子は木星から来た存在であり、平凡な感受性を持っています。息子の一雄は水星人として政治家を目指し、娘の暁子は金星人としての気品を持ちながらも、恋愛と妊娠に関する葛藤に直面します。

時代背景

作品が書かれた1962年は、東西冷戦が激化し、核戦争の危機が肌で感じられていた時代でした。このような状況は、作品内のテーマにも色濃く反映されています。三島自身の生活も、戦後社会の変化や不安と密接に関連しており、その感覚は登場人物たちに影響を与える要素となっています。

文壇の反響

『美しい星』は発表当時、好評を博しましたが、一方でその評価を巡っては激しい論争が起きました。多くの著名な作家たちが作品に注目し、三島の能力に敬意を表しました。特に、羽黒との議論部分は、現代の人間や歴史批判として高く評価されました。

作品の評価

評価は賛否が分かれているが、三島の難解なテーマや哲学的な対話は、多くの読者に深く考えさせるものでした。本作はただのSFに留まらず、文学としての地位を確立している点が強調されます。また、三島の生活や思想が作品全体に染み渡っていることがその魅力を増しています。

映画化

この小説は後に映画としても脚色され、設定が変更されながらも核戦争の危機が再現されています。映画版では、キャラクターたちがより現代的な問題に直面し、新たな解釈が加えられています。

まとめ

『美しい星』は、三島由紀夫の文学作品の中でも特異な位置を占めており、宇宙という枠組みの中で人間の存在を問いかける深いテーマを持っています。この作品を通じて、私たちは自身の存在や未来について再考させられることでしょう。

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