老女たち

『老女たち』

概要

『老女たち』は、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤによって1810年から1812年にかけて制作された油彩画です。スペインのロマン主義を代表する作品であり、主に虚無感や虚栄心をテーマにしています。この絵画は、現在リール宮殿美術館に所蔵されており、かつては同館の『手紙』と対になる作品と考えられていましたが、その見解は現在では見直されています。

内容

本作品には、かつての美しさを取り戻したいと願う2人の老女が描かれています。彼女たちは、衰えた身体で昔の容姿について語り合っています。特に右側の女性は、今にも消えてしまいそうなほど痩せています。この背景には、時間の神であるクロノスが箒を構えており、老女たちの脆弱性を象徴しています。

重要な人物は、右側に座る女性です。彼女は、手にメダリオンを持ち、そこに描かれている自身の若い頃の肖像か、愛する人の姿を見つめています。彼女は、豪華なアクセサリーを身に着けており、これがかつての豊かな生活を思わせる一方、今は質素な椅子に座っています。彼女のドレスはフランス風の華やかな花柄であり、老女には不釣り合いに見えます。

一方、彼女の隣に座る友人は、もっと控えめな服装をしており、鏡を持ち、老女のしわだらけの顔を映しています。この瞬間を通して、彼女は自分の若き日の姿との違いにがっかりし、深い悲しみに打ちひしがれています。画面の背後には、時間を象徴するクロノスが存在し、老女の運命が迫っていることを示唆しています。クロノスは力強さを持つ白髪の男性として描かれており、その姿が老女に迫る死を暗示しています。

ゴヤはこの作品を通じて、老いた自分たちの姿と虚栄心に対して辛辣な視線を向けています。特に老女の髪飾りは、ゴヤが描いた別の作品『カルロス4世の家族』の王妃マリア・ルイサに似ているため、一部の研究者は彼女を王妃と見なしています。ただし、実際には彼女はかつての美貌を保持したいと願っている老女を象徴しています。

また、絵画のタイトルは「お元気ですか？」というメッセージを通じて、消え去った美しさに囚われた彼女の心情を反映しています。鏡の中の自分とメダリオンの中の過去の記憶とを比べ、自らの姿に無念を抱く彼女は、虚無感に飲み込まれています。

作品の関係

『老女たち』は、ゴヤのその他の作品『バルコニーのマハたち』や『バルコニーのマハとセレスティーナ』と同じ連作に位置づけられています。その理由は、これらが同時期に制作され、ゴヤ家の財産目録に連続して記載されていることにあります。さらに、物理的には同じサイズであり、X線分析からも元のキャンバスが再使用されたことが示されています。

歴史的背景

この作品は1812年にゴヤの息子に譲渡された後、1830年代にフランス国王ルイ・フィリップ1世に売却され、ルーヴル美術館に所蔵されました。しかし、その後の動きにより、現在リール宮殿美術館に至るまでいくつかの所有者を経ています。

第2バージョン

『老女たち』には第2のバージョンがありましたが、これは別のコレクションに所蔵されてきました。議論の余地があるこのバージョンは、オリジナルと異なるとされ、特にその意義が焦点となっています。

結論

『老女たち』は、ゴヤの作品の中でも特に虚無感や人間の脆さを表現した傑作であり、年老いてなお美しさを追い求める人間の姿に深い洞察を与えています。

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