耶輸陀羅

耶輸陀羅（ヤショーダラー）

耶輸陀羅（やしゅだら）は、釈迦（ゴータマ・シッダールタ）が出家する前に妃であった女性です。彼女は、釈迦との間に一子、羅睺羅（らごら、ラーフラ）をもうけました。その後、釈迦の出家に伴い、彼女自身も比丘尼（女性の出家者）となり、仏教の教えを広める重要な役割を担いました。

名前・名称

耶輸陀羅の名前は、サンスクリット語でYaśodharā、パーリ語でYasodharāと表記されます。カタカナでは、それぞれヤショーダラー（梵）、ヤソーダラー（巴）と表記されます。また、他の音写として耶戍陀羅、漢訳では持称、具称、除称、降称、名聞、持誉など、さまざまな表記があります。

出自

耶輸陀羅の出自については、いくつかの説が存在します。

拘利族説: コーリヤ族の天臂城のアンジャナ王の孫娘で、善覚の娘とする説。この場合、提婆達多は彼女の弟にあたります（南伝パーリ仏典、ジャータカなど）。
釈迦族説: 釈迦族の住むカピラ城の執杖大臣の娘である瞿夷と同一人物とする説（普曜経など）。
大臣の娘説: カピラ城の大臣、摩訶男の娘とする説（仏本行集経）。

一般的には、釈迦の母である摩訶摩耶や、釈迦の叔母である摩訶波闍波提のいとこにあたるという説が有力です。北伝仏教では、彼女が婿選びの儀式で釈迦と競い合い、正妃となったという説もありますが、彼女が10歳前後、釈迦が16歳または17歳で結婚したという説が一般的です。

また、釈迦には他にも妃がいたという説もあり、その順は以下のようないくつかのパターンがあります。

耶輸陀羅、摩奴陀羅、喬曇彌（仏本行集経）
喬比迦、衆称味（耶輸陀羅の別名）、常楽意（修行本起経）
瞿波、耶輸陀羅、密里我惹（衆許摩訶帝経）
* 瞿夷、耶輸陀羅、鹿野（五慶経）

これらの説の中には、バッダカッチャーナーという名前も見られ、これは出家後の耶輸陀羅の別名であるとする説もあります。

逸話

耶輸陀羅は、結婚して初めて宮中に入る際、ヴェールをつけずに、「この傷一つない顔をなぜ隠す必要があるのか」と言ったと伝えられています。このことから、彼女は五天竺第一の美女と称えられました。

彼女は釈迦の出家直前（または直後）にラーフラを出産しましたが、ラーフラを6年間胎内に宿していたという説や、釈迦が難行苦行中に宿し、成道の夜に生まれたという説など、さまざまな説があります。

釈迦が成道後に故郷に帰還した際、彼女はラーフラを連れて釈迦に会いに行き、「財宝を譲って下さい」と言うように頼んだと伝えられています。しかし、ラーフラは釈迦の一行についていき、沙弥（見習い修行者）となりました。

出家

釈迦の帰郷後、耶輸陀羅は他の女性たちと共に釈迦に出家を懇願しましたが、なかなか許されませんでした。しかし、彼女たちは剃髪し、黄衣をまとって釈迦一行を追いかけ、阿難（アーナンダ）の説得により、ようやく出家を許されました。出家後は、反省に努め、尼僧の中でも第一人者になったといわれています。

南伝テーリーガーター（長老尼偈）には、彼女が釈迦との出会いを述べた偈があり、その深い関係性を物語っています。

耶輸陀羅の生涯は、釈迦の妃として、また仏教の尼僧として、その後の仏教の歴史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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