耿通

耿通（こう つう、生年不詳 - 1412年）は、明代の官僚であり、済南府斉東県を本貫とする人物です。彼の生涯は、官僚としての活動と、その後の悲劇的な最期によって特徴づけられます。

初期の官僚生活

耿通は洪武年間に郷試に合格し、官僚としての道を歩み始めました。最初の役職は襄陽府教授であり、地方での教育に携わりました。永楽帝の治世に入ると、その才能を認められ、中央の官僚として刑科給事中に抜擢されました。

外交と諫言

1406年（永楽4年）には、ベトナムへの使節として派遣され、外交の舞台でも活躍しました。また、1409年（永楽7年）には、都御史の陳瑛を弾劾するなど、権力に対しても毅然とした態度を示しました。1411年（永楽9年）には、役務を終えた工匠たちの帰郷を求めるなど、民衆の生活にも配慮した政策を進言しています。その後、大理寺右丞に昇進し、司法の分野でもその能力を発揮しました。

太子擁護と悲劇的な最期

耿通の生涯における最大の転換点は、永楽帝が北巡した際に、皇太子朱高熾が監国を務めた時期に起こりました。漢王朱高煦が太子位を奪おうと陰謀を巡らせ、永楽帝の側近を買収して太子を讒言したため、東宮の臣僚に罪を得る者が多く出ました。永楽帝は監国の事務を見直し、多くの部下を異動させました。この状況に対し、耿通は「太子に大きな過誤はなく、改めるべきではありません」と永楽帝に進言しました。しかし、度重なる諫言は永楽帝の不興を買い、怒りを買うこととなります。

1412年（永楽10年）秋、耿通が請託を受けて罪人を釈放したとの訴えがあり、永楽帝は激怒し、都察院と文武の大臣にこの件の調査を命じました。永楽帝は「必ず耿通を殺して赦すな」と激しい言葉を投げかけ、群臣は皇帝の意を受けて、耿通の罪は斬刑に相当すると上奏しました。永楽帝は耿通を「祖法を壊し、父子を離間した」と非難し、寛恕すべきではないと断じ、極刑に処する命令を下しました。廷臣はあえて争わず、耿通は奸党と非難され、磔刑によって処刑されました。

耿通の悲劇は、彼の誠実さと正義感、そして時の権力者との対立によって引き起こされたものであり、明代の政治の一側面を浮き彫りにしています。彼の最期は、官僚としての忠誠心と、時の権力との狭間で苦悩する姿を示しており、歴史の中にその名を刻んでいます。

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