聖なる館

『聖なる館』（Houses of the Holy）は、レッド・ツェッペリンが1973年3月28日に発表した5作目のアルバムです。プロデューサーは、ギタリストのジミー・ペイジが務め、レコーディング・エンジニアはエディ・クレイマーとアンディ・ジョンズが担当しました。

制作の背景

前作『レッド・ツェッペリン IV』で絶頂期を迎えたバンドは、1972年にライブ活動を休止し、新作アルバムの制作に取り掛かりました。レコーディングは1月から開始されましたが、ツアーのため一時中断。4月に本格的に再開されました。今回は、ヘッドリィ・グランジが使用できなかったため、ミック・ジャガーの別荘スターグローヴスにローリング・ストーンズの移動スタジオを運び込んで作業が行われました。オーバーダビングはロンドンのオリンピック・スタジオ、ミキシングはニューヨークのエレクトリック・レディ・スタジオで行われ、5月に完成。その後、バンドはアメリカツアーに出発しました。本作のレコーディングでは、メンバー全員での演奏よりも、オーバーダビングに重点が置かれました。

アルバムに正式なタイトルが付けられたのは、ツェッペリンのアルバムとしては本作が初めてでした。ジミー・ペイジは、『聖なる館』というタイトルについて、「僕たち4人それぞれが、精霊の棲む家になるという意味だ」と語っています。

レコーディングされたものの、アルバムに収録されなかった楽曲の中には、アルバムタイトルにもなった「聖なる館」や、「流浪の民」、「黒い田舎の女」などがありました。これらの曲は、後に『フィジカル・グラフィティ』や、解散後に発表された『最終楽章 (コーダ)』に収録されています。

アートワーク

本作のジャケットは、ピンク・フロイドやエマーソン・レイク・アンド・パーマーの作品も手がけたヒプノシスが担当しました。11人の裸の子供たちが岩場を登っていく様子が描かれたジャケットは、アーサー・C・クラークの小説『幼年期の終り』にインスパイアされたものです。当初は、前作『IV』で使用されたペイジのシンボル「zoso」をナスカの地上絵として描くという案もありました。

前作同様、ジャケットにはタイトルなどの情報は一切記載されず、レコードの内袋にアルバムタイトル、クレジット、歌詞が記載されました。ツェッペリンのオリジナルアルバムで全曲の歌詞が掲載されているのは、本作のみです。

撮影は、アイルランドの世界遺産ジャイアンツ・コーズウェーで行われました。岩場を登る子供たちは、サマンサとステファンのゲイツ姉弟がモデルを務め、様々なポーズを重ね焼きすることで11人に見せています。ジャケットの写真は手作業で着色され、6週間かけて完成されましたが、ペイジは仕上がりに満足しなかったと言われています。アメリカでは、ジャケットの裸の子供たちの描写が検閲の対象となり、バンド名とアルバムタイトルが書かれた帯で子供たちの尻を隠すことになりました。

サマンサ・ゲイツは、日本の写真家、沢渡朔の写真集『少女アリス』のモデルも務めており、後にツェッペリンのアルバム『プレゼンス』にも起用されています。弟のステファン・ゲイツは、後にピンク・フロイドの『対』に登場しています。ヒプノシスのストーム・トーガソンは、当時ツェッペリンについて「世界中に悪評が知れ渡っていて、怖かった」と語っています。このジャケットデザインは、2003年にVH1が選んだ「グレイテスト・アルバム・カバー50」で6位に選ばれました。

評価と影響

『聖なる館』は、ビルボードチャートで首位を獲得し、トップ40に39週間ランクインしました。これは、レッド・ツェッペリンのアルバムとしては最長記録です。しかし、批評家からは「子供だまし」と酷評され、支離滅裂な作品であるという評価もありました。ペイジは「バンド自身が楽しんでプレイし、アルバムを作っていることがサウンドに表れている」と語っています。本作は、レゲエやファンクの要素を取り入れるなど、新たな試みが見られる一方で、ブルースナンバーがないことや、ハードさに欠ける点が指摘されました。しかし、本作はツェッペリンの多様性を広げた作品としても評価されています。

2012年には、ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500で148位に選ばれました。

リイシュー

1986年に初CD化され、1993年の『コンプリート・スタジオ・レコーディングス』で全曲リマスター化されました。2014年には、最新リマスター版がリリースされ、デラックス・エディションには、ラフ・ミックス・バージョンやバッキング・トラックが収録されました。

収録曲

（省略）

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