聖エリーザベトの伝説

フランツ・リスト：聖エリーザベトの伝説

『聖エリーザベトの伝説』（ドイツ語：Die Legende von der heiligen Elisabeth）は、近代音楽の巨匠フランツ・リストが手掛けた3つのオラトリオのうち、最初期にあたる傑作です。1862年に完成したこの作品は、テューリンゲン地方の聖人エリーザベト（エルジェーベト）の生涯と行跡を壮大なスケールで描いています。

創作背景と献呈

本作は、オーストリアの画家モーリッツ・フォン・シュヴィントがヴァルトブルク城に描いたフレスコ画から強い霊感を得て作曲されました。リストは聖エリーザベトの伝説に深く惹かれ、その物語を音楽で表現することを志します。作曲はヴァイマル時代の1857年から1858年にかけて着手され、彼がローマに移住した後の1862年に完成を迎えました。この作品はバイエルン国王ルートヴィヒ2世に献呈されており、献呈者からも深い敬意と賛辞が寄せられました。

生前の評価と上演

完成当時、このオラトリオは上演に2時間半以上を要する大作でありながら、リストの生前には非常に頻繁に上演され、そのたびに満員となるほどの盛況ぶりを示しました。特筆すべきは、これらの上演が全て慈善事業を目的とした義援金募集のために行われていた点です。1866年5月にはミュンヘンでビューローの指揮により上演され、献呈を受けたルートヴィヒ2世は「この作品の芸術的な価値は、純粋で一点の曇りもないものである」と絶賛しました。初演は1865年8月15日、リスト自身の指揮によって行われましたが、この時すでに聖職者（アベ）の服をまとっていた彼の姿は聴衆に強い印象を与え、多くのスケッチに残されています。この指揮者リストの姿が、上演の成功に大きく貢献したと考えられます。日本での初演は1973年11月23日に実現しています。

作品の構成と音楽

オラトリオは全2部構成で、それぞれの部はさらに3つの場面に分かれています。物語は聖エリーザベトがヴァルトブルク城で育ち、慈愛に満ちた生涯を送り、そして昇天するまでの主要な出来事を音楽で綴ります。

作品全体を通して、いくつかの主要なライトモティーフが重要な役割を果たします。特に序奏に現れる「第一動機」は、聖エリーザベトの祝日のための聖歌に由来するとされ、オラトリオ全体を貫く中心的な主題となっています。第1部第1曲「エリーザベトのヴァルトブルクへの到着」では、ハンガリー民謡を基にした「第三動機」が登場し、彼女の故郷ハンガリーとのつながりを示唆します。第1部第3曲「十字軍の騎士」では、古い巡礼歌に由来する「第四動機」が勇壮な十字軍の進軍歌として用いられます。

各場面では、物語に沿って音楽が展開します。有名な「バラの奇跡」は、第1部第2曲「エリーザベトとルートヴィヒとの対面」の中で描かれます。第2部に入ると、ルートヴィヒの戦死という悲劇と、それに伴う天変地異がドラマティックに描かれ、エリーザベトの深い悲しみが表現されます（第4曲「ゾフィー方伯夫人」）。第2部第5曲「エリーザベト」では、故郷ハンガリーでの慈善活動と信仰生活、そして彼女の精神的な浄化と昇天が描かれ、ここでハンガリーの聖歌や民謡に基づいた「第二動機」が登場します。最終曲である第6曲「エリーザベトの葬儀」では、ドイツの統治者や司教、ハンガリーの司教などが登場し、聖女を称え、その魂を追悼する合唱が壮大に響き渡り、物語とオラトリオ全体が荘厳に終結します。

演奏編成

本作は大規模な演奏編成を要求します。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットといった木管楽器、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバなどの金管楽器、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、シンバル、鐘といった打楽器に加え、2台のハープ、オルガン、ハルモニウムが用いられます。これに弦五部が加わり、厚みのある管弦楽を形成します。さらに、混声合唱と児童合唱が重要な役割を担い、独唱パートはソプラノ、メゾソプラノ、コントラルトまたはバリトン、そして複数のバリトンとバス歌手が配されています。一部の曲はピアノ連弾版にも編曲されており、異なる形態でも楽しまれています。

『聖エリーザベトの伝説』は、リストの宗教音楽における重要な位置を占める作品であり、その物語性、音楽的な力強さ、そしてライトモティーフの巧妙な使用は、後期ロマン派のオラトリオにおける傑作の一つと言えるでしょう。

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