聖ゲオルギウスと竜 (ラファエロ)

『聖ゲオルギウスと竜』

『聖ゲオルギウスと竜』（せいゲオルギウスとりゅう）は、1504年から1505年頃にイタリアの巨匠ラファエロ・サンツィオによって制作された油彩画です。この作品は、聖ゲオルギウスというキリスト教の聖人が竜を退治する姿を描いたもので、特に13世紀の文献『黄金伝説』からインスパイアを受けています。作品はルネサンス期の象徴を体現し、深い歴史的背景と芸術的要素が融合したものとなっています。

制作背景

本作品の起源は、ルネサンス後期の画家であり著述家であるジャン・パオロ・ロマッツォの記述に遡ります（1584年）。しかし、実際の制作経緯や注文主に関する詳細な記録は存在していません。そのため、様々な憶測が飛び交っていますが、関係性の深いウルビーノの宮廷となぜか結びついています。中でも、ウルビーノ公フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロの娘であるジョヴァンナが、若かりし頃のラファエロを庇護し、作品の注文者であった可能性が指摘されています。

ジョヴァンナの家系は当時の政治的情勢に深く影響を受けており、ルネサンス期には教皇権力の拡大に認められていました。特に、アレクサンデル6世と彼の息子チェーザレ・ボルジアの登場は、彼らにとっても重要な歴史的背景となります。1502年にチェーザレがウルビーノを征服すると、ジョヴァンナの家族はかなりの混乱を経験しました。このような混乱の中で、彼女は一族の栄光を称えるために、聖ゲオルギウスの戦士としての姿を描いたこの作品を依頼したと考えられています。

作品の構成とテーマ

ラファエロは、聖ゲオルギウスが竜に剣を振り下ろす瞬間を力強く描いています。聖ゲオルギウスは黒い甲冑を装備し、羽根飾り付きのヴァルクを被り、堂々とした白馬に騎乗しています。その馬は、ピンクと深紅の鞍をつけており、両脚を高く跳ね上げています。聖人の槍は破壊されて散らばっていますが、その穂先は竜の胸に突き刺されており、ドラゴンが依然として彼に攻撃を仕掛けようとしている表情には、緊迫感が漂います。

作品の背景には、平穏な緑の風景が広がり、まるで戦いとは無関係に静まり返っているかのような印象を与えています。一方で、シレーヌの王女がドラゴンから逃げるシーンが描かれており、彼女の腰には白い帯が結ばれ、王に帰還する様子が暗示されています。ウフィツィ美術館にある原寸大下絵では犠牲者の骨の描写が見られるが、構想が途中で変更されたことが分かります。

作品の空間的な表現と風景描写は、師匠であるペルジーノから影響を受けていながらも、聖ゲオルギウス、竜、逃げる王女という要素を対称的に配置することで、静的な構図に動的なエネルギーを与えています。

来歴と別のバージョン

ジャン・パオロ・ロマッツォによると、作品はかつてミラノの所有者によりピアチェンツァ公アスカニオ・スフォルツァに売却されたとされています。その後、17世紀にはジュール・マザラン枢機卿のコレクションに入り、1665年にフランス国王ルイ14世によって購入され、現在のルーヴル美術館に保管されています。また、ワシントンのナショナル・ギャラリーには、異なるバージョンの『聖ゲオルギウスと竜』が所蔵されており、おそらく本作品の後に制作されたものと考えられています。

ラファエロの『聖ゲオルギウスと竜』は、ただの伝説ではなく、歴史的文脈や様々な芸術的な要素が織り交ぜられた重要な作品です。この絵を通じて、当時の社会情勢や宗教的な価値観を考察することができるのが、この作品の大きな魅力です。

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