聖ゲオルギウスと竜 (ラファエロ、ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

ラファエロの『聖ゲオルギウスと竜』

『聖ゲオルギウスと竜』（せいゲオルギウスとりゅう）は、イタリアの巨匠ラファエロ・サンツィオが1506年ごろに制作した油彩画です。この作品は聖ゲオルギウスがドラゴンを討伐し、王女を救うという13世紀の伝説をテーマにしており、ラファエロの初期の重要な作品の一つとされています。

主題の背景

この絵は、中世に書かれた『黄金伝説』に記された物語に基づいています。リビアの都市シレーヌは、湖に住むドラゴンに恐れられ、人々は最初動物を生け贄として捧げることでこの怪物と共存していました。しかし、動物が尽きると人間を生け贄にしなければならなくなり、ついには王女がその犠牲に選ばれます。聖ゲオルギウスが訪れた際、彼は王女を救うためにドラゴンに立ち向かい、槍で打ち倒します。この勇敢な行為が、シレーヌの人々をキリスト教へと導く契機となりました。

制作の背景と委託者

この絵は、ウルビーノ公爵グイドバルド・ダ・モンテフェルトロによって依頼されたと考えられています。彼は当時のローマ教皇アレクサンデル6世の権力闘争の影響を受け、1502年にウルビーノを失い、亡命を余儀なくされました。しかし、その後の復帰を果たした後、イングランド国王ヘンリー7世からの勅賞を受けた際、聖ゲオルギウスがガーター騎士団の守護聖人であったことから、この作品を通じて感謝の意を表したと言われています。

作品の描写

作品の中心には、白馬に乗った騎士の姿が描かれています。彼は灰色の甲冑で身を包み、槍をドラゴンの胸に突き刺しています。騎士は真っ直ぐな鼻筋を持ち、金で装飾された兜の下から茶色の髪が見えます。馬も同様に華やかな装飾が施され、躍動的に動く姿が印象的です。画面の右側には、赤いドレスを身にまとったシレーヌの王女がひざまずいて祈っており、彼女の頭上にも美しい金色の光輪が輝いています。騎士と王女との肌の色は似ており、神聖な結びつきを感じさせます。

ドラゴンは、長く蛇のような体と犬のような頭を持ち、その姿は非常に異様です。騎士とドラゴンとの対峙は、緊張感を生み出し、見る者に強い印象を与えます。興味深い点は、騎士の青色のバンドに「HONI」という文字が刺繍されており、これはガーター騎士団のモットーの一部とされています。この要素から、作品が当時の重要な政治的背景に関連していることを示唆しています。

作品の履歴

本作の初期の歴史は不明ですが、過去の所有者の中には、イングランド国王チャールズ1世やその後のコレクターであるピエール・クロザが含まれています。18世紀初頭にロシア皇帝エカチェリーナ2世に購入された後、長い間サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に保管されていました。その後、1931年に本作はアメリカ合衆国の財務長官アンドリュー・メロンに売却され、現在はワシントンD.C.のナショナル・ギャラリーに収蔵されています。

別のバージョン

ラファエロによる『聖ゲオルギウスと竜』には、パリのルーヴル美術館に所蔵されている別バージョンも存在します。この作品は、元の作品よりも前に制作された可能性があります。

以上が、ラファエロの『聖ゲオルギウスと竜』に関する概要とその意義です。この作品は、聖なる使命、勇気、信仰の象徴として、ルネサンスの芸術の中でも特に評価されています。

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