聖ステファノの石打ち (レンブラント)

レンブラント・ファン・レイン『聖ステファノの石打ち』：若き巨匠の激情と信仰

17世紀オランダ黄金時代を代表する巨匠、レンブラント・ファン・レイン。彼が19歳の若さで1625年に描いた油彩画『聖ステファノの石打ち』は、彼の初期作品の中でも傑出した存在感を放っています。現在、フランスのリヨン美術館に所蔵されているこの作品は、板上に油彩で描かれており、レンブラントの才能と、当時彼が受けた様々な影響が凝縮された一枚と言えるでしょう。

聖ステファノの殉教：プロテスタントの視点と宗教画の伝統

絵画の主題は、聖書「使徒言行録」に記されている聖ステファノの殉教です。初期キリスト教会の助祭であったステファノは、信仰ゆえに石打ちの刑に処せられました。レンブラントは、町の外で多くの群衆に囲まれ、石を投げつけられながら、神への祈りを捧げるステファノの瞬間を描いています。周囲の光は、天国が開かれていることを象徴的に表現しています。

興味深いのは、プロテスタント家庭で育ったレンブラントが、聖人の殉教を描いている点です。カトリックでは聖人崇拝が盛んに行われていましたが、当時オランダで主流であったカルヴァン派のプロテスタントは、それを禁じていました。しかし、ステファノは最初の殉教者として、プロテスタントにとっても特別な意味を持つ人物であったと言えるでしょう。彼の死は、信仰のために迫害された人々の勇気を象徴し、17世紀の人々にとって深く共感を呼ぶものでした。

様々な影響と独創的な表現：ラストマン、カラヴァッジョ、エルスハイマー

レンブラントは、師であるピーテル・ラストマンの教えを忠実に受け継ぎつつ、独自の表現を模索していました。『聖ステファノの石打ち』にも、ラストマンの影響が見て取れます。ラストマンの同主題の作品（現存せず、模写のみが残る）を参考にしながらも、レンブラントは、カラヴァッジョやアダム・エルスハイマーといった巨匠たちの芸術からも多大な影響を受けています。特にエルスハイマーの作品は、本作の直接的な手本と考えられています。

エルスハイマーの作品に見られる、斜めからの光線によって聖人を照らし出す技法や、筋骨隆々の迫害者たちの描写、ステファノのきらびやかな衣装など、多くの要素がレンブラントの作品に反映されています。また、カラヴァッジョのキアロスクーロ（明暗法）の手法も取り入れ、画面を光と影のコントラストで効果的に構成しています。画面は、対角線によって光の部分と影の部分に分けられ、奥行きが強調されています。これは「ルプソワール」と呼ばれる技法で、エルスハイマーや、17世紀初頭のローマの画家たちの影響が伺えます。

隠された自画像？：絵画の中に潜むレンブラント

背景には、サウルとタルススが座り、迫害者たちの外套を膝の上に載せている様子が描かれています。ステファノの背後の人物は、まるで絵画の中に挿入された自画像のように見えます。美術史家の中には、この作品にレンブラント自身の姿が複数描かれていると主張する者もいます。レンブラントは、まるで出来事を観察しているかのような、客観的な視点と、感情移入した視点の両方を巧みに表現しています。

まとめ：若き才能の爆発

『聖ステファノの石打ち』は、わずか19歳で描かれた作品とは思えないほど、高い完成度と深みのある表現力を持つ絵画です。ラストマン、カラヴァッジョ、エルスハイマーといった巨匠たちの影響を受けながらも、レンブラント独自の才能と感性が光る、初期の代表作と言えるでしょう。この作品を通して、若きレンブラントの情熱と才能を、そして、宗教改革期の社会背景を理解することができるでしょう。

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