聖体奉挙 (エルガー)

聖体奉挙（Sursum corda）作品11

「聖体奉挙（せいたいほうきょ）」作品11は、高名な英国の作曲家エドワード・エルガー（Edward Elgar, 1857-1934）によって1894年に作曲された、弦楽合奏、金管楽器、ティンパニ、オルガンのための管弦楽作品です。

作曲の背景

作曲当時のエルガーは、既に演奏会用序曲『フロワッサール』やカンタータ『黒騎士』といった作品の初演で成功を収め、故郷ウスターにおいて作曲家としての地位を着実に築きつつありました。パートソングの出版も決まるなど、キャリアは順風満帆に進んでいましたが、エルガーはさらなる飛躍とより広い舞台での成功の機会を常に模索していました。そうした中、将来英国王となるヨーク公（後のジョージ5世）がウスターを訪問するという知らせがもたらされます。

この重要な機会を捉えるため、エルガーは1894年の初めに本作の作曲に着手しました。彼は、1887年に構想しながらも完成に至らなかったヴァイオリンソナタの緩徐楽章として使用する予定だった音楽素材などを活用し、この作品を比較的急ピッチで書き上げたとされています。このエピソードは、エルガーが当時の社会情勢や機会を敏感に捉え、創作活動に結びつけていた様子を伝えています。

初演とその後

本作の初演は、作曲と同じ1894年の4月9日、ウスター大聖堂において行われました。この歴史的な演奏会には、作曲の直接的な契機となったヨーク公も臨席しました。指揮は、当時ウスター大聖堂のオルガニストを務めていたヒュー・ブレアが担当しましたが、作曲者エルガー自身は残念ながら体調を崩しており、初演に立ち会うことはできませんでした。

その後、本作はロンドンでも紹介される機会を得ます。ロンドン初演は、1901年9月21日にクイーンズ・ホールのプロムナード・コンサートで行われました。作品が出版されたのは初演から7年後の1901年のことで、献呈相手はエルガーの親しい友人であったヘンリー・ダイク・アクランド（Henry Dyke Acland, 1850-1936）です。アクランドはアマチュアのチェリストであり、エルガーとはゴルフ仲間でもありました。また、彼は著名な医師で教育者のヘンリー・アクランドの息子であり、マルヴァーンにあるウスター・オールド・バンクの支配人を務めるなど、多方面で活躍した人物でした。

楽曲の概要と特徴

「聖体奉挙」は、その名の響きが示唆するように、宗教的な儀式を連想させる厳かさと、エルガー特有の温かく抒情的な旋律が融合した作品です。深遠な哲学的洞察というよりも、豊かな抒情性と内に秘めた情熱を特徴としています。

この作品の音楽は、やがて英国を代表する作曲家へと成長を遂げ、世界的名声を獲得することになるエルガーの、来るべき成熟期を鮮やかに予感させるものと言えるでしょう。彼の後の傑作群に見られるようなオーケストレーションの妙技や、情感豊かなメロディ・メイキングの片鱗が既にこの時点で表れています。

楽曲構成

楽曲はアダージョ・ソレンネ、変ロ長調、2/4拍子で書かれています。単一楽章の構成ですが、いくつかの明確なセクションに分かれています。

1. 導入部: 楽曲は、金管楽器群による厳かな変ロ音のファンファーレで静かに幕を開けます。この重厚な響きが、曲全体の雰囲気を示唆します。
2. 主部: 続いて弦楽器に主要な主題が現れます。この旋律が楽曲の中心的な素材となり、様々な形で展開されます。
3. 展開とクライマックス: 主部主題に基づいた音楽は次第に盛り上がりを見せ、最初のクライマックスに達します。クライマックス後、音楽は一旦落ち着きを取り戻します。
4. 新しい素材: 落ち着いた後、冒頭の変ロ音の信号が再び現れ、それに続いてオルガンと弦楽器の間で新しい素材による応答が始まります。この新しい旋律が楽曲に変化と広がりを与えます。
5. 第2のクライマックス: この新しい素材はさらに発展し、より大きな盛り上がりを伴う第2のクライマックスを形成します。
6. 主部回帰と終結: 第2のクライマックスを経て、最初の主要主題が回帰し、楽曲の締めくくりへと向かいます。最後の大きな盛り上がりの後、冒頭の金管の信号が再び響き渡り、主要主題などを用いたコーダに入ります。最後はトゥッティによる充実した響きで堂々と曲を閉じます。

演奏時間と編成

演奏時間: 約10分
楽器編成:
弦楽合奏
トランペット2
ホルン4
トロンボーン3
テューバ
ティンパニ
* オルガン

このように、「聖体奉挙」はエルガーの初期の重要な管弦楽作品であり、彼の作曲家としての成長と、将来の大成功を予見させる魅力的な一曲と言えるでしょう。

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