聖徳太子の地球儀

聖徳太子地球儀：謎に包まれた古代の地球？

斑鳩寺に伝わる「聖徳太子地球儀」は、その名前に反して多くの謎に包まれた、ソフトボール程度の大きさの球体です。表面には、南北アメリカ大陸やユーラシア大陸がレリーフのように表現されており、一見すると古代の地球儀を思わせます。しかし、詳細な分析や歴史的考察から、その実態は、私たちが想像する「聖徳太子の時代」の遺物とは異なる可能性が高いことが示唆されています。

科学的分析：意外な素材と謎の文字

2003年、日本テレビの番組『特命リサーチ200X』で、この地球儀の材質分析が行われました。その結果、石灰や海藻糊を材料とした、漆喰のような技法で作られている可能性が高いことが判明しました。これは、当時の高度な技術を物語る一方、製作年代に関する新たな疑問を投げかけます。さらに、表面には「墨瓦臘泥加（メガラニカ）」という文字が発見されました。この文字が、後の分析で重要な手がかりとなります。

メガラニカ：想像上の大陸の謎

「メガラニカ（Magallanica）」とは、かつて南半球に存在すると考えられていた想像上の大陸です。古代ギリシアのプトレマイオスの地図にもその存在を示唆する記述があり、大航海時代にはマゼランがティエラ・デル・フェゴ島をその一部と誤認したという説もあります。この名称は、マゼランのスペイン名に由来すると言われています。この文字が地球儀に刻まれていることは、その製作年代を推定する上で重要な情報となります。

世界地図の伝来とメガラニカ

日本に世界地図が本格的に伝来したのは、1602年にイエズス会の宣教師マテオ・リッチによって伝えられた『坤輿万国全図』がきっかけです。この地図には既にメガラニカが描かれており、聖徳太子地球儀の製作時期を考察する上で、重要な比較対象となります。『坤輿万国全図』以前の日本において、これほど詳細な世界観を示す地図が存在したという記録はありません。

製作年代：江戸時代の可能性

メガラニカの名称が地球儀に刻まれていること、そして『特命リサーチ200X』で紹介された仮説から、聖徳太子地球儀は聖徳太子の時代（574年～622年）のものではなく、江戸時代以降に製作された可能性が高いとされています。特に、日本で最初の百科事典『和漢三才図会』（1712年）の編纂者である寺島良安が製作したという説が有力視されています。『和漢三才図会』に掲載されている「山海輿地全図」と聖徳太子地球儀の地形が酷似していることがその根拠です。

ムー大陸：謎めいた存在

聖徳太子地球儀には、「山海輿地全図」には描かれていない大陸がムー大陸に相当する位置に描かれています。ムー大陸は1931年にジェームズ・チャーチワードの『失われたムー大陸』で初めて紹介された、伝説上の大陸です。地球儀に描かれている大陸が、実際に存在したムー大陸なのか、それともフィリピンやインドネシアなどの島々を加工して表現したものなのかは、依然として謎のままです。原田実は、加工の都合で場所と大きさを変えられたフィリピン・インドネシア・ミクロネシアの島々である、と主張しています。

まとめ：謎多き古代の遺物

聖徳太子地球儀は、その名前に反し、聖徳太子とは直接関係がない可能性が高い、謎多き遺物です。科学的分析や歴史的背景から、江戸時代に製作された可能性が高いと推測されますが、その製作目的や経緯、そして描かれた大陸の正体など、未解明な点が多く残されています。今後も、更なる研究と調査によって、この地球儀の謎が解き明かされることを期待したいものです。

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