聖徳太子伝暦

聖徳太子伝暦（しょうとくたいしでんりゃく）

『聖徳太子伝暦』は、厩戸皇子（聖徳太子）の生涯を詳細に記した伝記であり、『聖徳太子平氏伝』とも呼ばれます。全二巻からなる漢文の編年体で記述された本書は、聖徳太子の事績や関連する出来事を年代順に追うことができます。

概要

残念ながら、本書は1923年の関東大震災で焼失してしまいましたが、東京帝国大学附属図書館所蔵の『太子伝傍註』に書き加えられた寛元2年（1244年）の識語から、延喜17年（917年）に藤原兼輔によって編纂された原撰本が存在したことが示唆されています。ただし、当初の内容は現在流布しているものよりも簡略であったと考えられており、後世に四天王寺本願縁起や「暦録」、「七代記」などが追補されたとされています。

成立年代については諸説あり、現在の形になったのは正暦3年（992年）とする説や、永観2年（984年）以前に成立した『平氏撰聖徳太子伝』を補訂して正暦3年に『伝暦』ができたとする説も存在します。

古くから「平氏撰」と呼ばれており、平基親、平季貞、葛原親王などが撰者として伝えられています。難波の百済寺の老僧から得た『太子行事奇縦之書三巻』を基に、『日本書紀』や『上宮聖徳太子伝補闕記』などの記事を参照し、撰者の創作も加えて構成されたと考えられています。

内容

欽明天皇31年（570年）から皇極天皇4年（645年）まで、聖徳太子の生涯と関連する出来事を年代順に記述しています。太子の誕生から薨去、山背大兄王の事件、蘇我入鹿の討滅などが含まれます。説話や奇談を多く含み、史実として鵜呑みにできない部分もありますが、後世の太子信仰に大きな影響を与え、一般的な聖徳太子像の形成に貢献しました。

主な構成と特徴

入胎: 聖徳太子の母が夢で金色の僧を見て、その僧が口の中に入るという神秘的な場面が描かれています。
誕生: 厩で生まれた太子に、西方から光が差し込み、香気があったとされています。
幼少期の逸話: 合掌して「南無仏」と唱えたり、花園で松葉を賞賛したり、自ら笞を受けようとしたりする姿が描かれています。
蝦夷征伐: 10歳にして蝦夷を教え諭し、鎮撫に成功したという逸話があります。
恋愛: 膳大郎女を妃とし、愛馬の黒駒に乗って富士山頂に登ったという伝説的な話が語られています。
勝鬘経の講義: 『勝鬘経』を講じた夜、蓮華が雨のように降り注ぎ、講説の地を満たしたとされています。
死後の世界: 片岡山の飢人に会った太子。飢人が没した後、墓を開けると遺体はなく、衣服と太子の与えた紫の袍だけが残されていたという話が残されています。

聖徳太子像への影響

『伝暦』に描かれた聖徳太子は、救済者の化身として仏と同格の地位を与えられており、信仰の対象であると同時に、思慕の対象でもありました。道徳的規範や社会倫理に適応する存在として、また夫婦関係の倫理的規範を示す存在として描かれており、庶民にも親しみやすい存在として太子信仰が広まる一因となりました。

書写本

現存する主な書写本としては、以下のものがあります。

内庁書陵部所蔵伏見宮本（重要文化財、永久元年（1113年）本系写本）
書陵部本（永久元年本系写本、長寛3年（1165年）、校点本）
西本願寺本（保安5年（1124年、本系写本、文明4年（1472年、書写））
興福寺本（重要文化財、文永4年（1267年）、本系写本、徳治2年（1307年）、書写）
阿波本願寺本（重要文化財、乾元元年（1302年）、法隆寺西室にて書写）

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