聖書無謬説

聖書無謬説とは

聖書無謬説（せいしょむびゅうせつ、Biblical infallibility）とは、キリスト教における教義の一つで、「聖書」には誤りが全くないとする考え方です。これは、聖書を神の言葉として絶対的に捉え、そのすべての記述が真実であると信じる立場に根ざしています。

この概念は、逐語無謬説、無誤無謬説、逐語的無謬説などとも呼ばれ、神学者、聖書学者、そしてキリスト教信仰者によって用いられます。しかし、神学的な議論においては、専門用語として扱われ、聖書をどのように信仰、神学、聖書学の中で位置づけるかという、キリスト教の教理の根幹に関わる重要な問題とされています。

教理

聖書無謬説は、聖書を第一義的に重要視するキリスト教の教派や教会が主張する教理です。この教理は、聖書の「無誤」と「無謬」という二つの概念に基づいて議論されます。

元来、「無誤」と「無謬」は共に「誤りがない」ことを意味する同義語ですが、聖書の性質に関する議論が進むにつれて、フラー神学校のダニエル・フラーらは、これらの用語に異なるニュアンスを付与しました。

無謬：教理や道徳に関する聖書の記述において、誤った教えを導かないこと。
無誤：歴史的、科学的な記述においても、誤った内容がないこと。

このように意味を区別することで、「聖書に誤りがない」という主張が、前者の「無謬」のみを指す場合と、後者の「無誤」を含む場合とに分かれるようになりました。そして、聖書の「無謬」性のみを主張する立場は「部分的無誤性」の支持者、双方を認める立場は「全的無誤性」の支持者と表現されるようになります。

ただし、「無誤」と「無謬」の定義は様々な著作で多様であり、注意深く読む必要があります。そもそも、この二つの概念を分離すること自体に無理があるという見解もあり、聖書の無誤性に関するシカゴ声明は「全的無誤性」を支持する立場からの声明となっています。この声明では、無誤性と無謬性は対立するものではないとされています。

聖書の現象

聖書無謬説を支持する学者たちも、聖書内の平行記事間の矛盾に気づいていないわけではありません。しかし、そのような問題を「誤り」と断定せず、「諸現象」と表現することで、無誤性の否定を避けます。

カトリック教会

カトリック教会も聖書無謬説の立場をとっていますが、聖書の巻数がプロテスタントとは異なります。

批判

聖書無謬説に対しては、聖書を自由に読もうとする自由主義神学者からの批判があります。

例えば、山我哲雄は、聖書無謬説を原理主義の特徴の一つとして挙げています。批判の要旨は、聖書を書いた「聖書記者」自身が人間であり、相対的で有限な存在であるため、聖書には人間の主観が伴うという点です。また、聖書の正典を決めたのは人間が開催した公会議であり、聖書には様々な矛盾点があるとして、歴史的批判的に読むべきだと主張する神学者もいます。彼らは、リベラルな高等批評の立場から、文書仮説を支持しています。

さらに、聖書無謬説を「聖書に書かれていることを一言一句、鵜呑みにするべき」という教義だと定義し、批判するリベラル派の神学者や教派も存在します。

脚注

[1] 聖書無謬説に関する参考文献や脚注をここに記述。

関連文献

『聖書の霊感と権威』B・B・ウォーフィールド著　新教出版社
『神の言葉である聖書』内田和彦著　いのちのことば社　ISBN 4773367725
『現代福音主義神学』宇田進著 いのちのことば社 ISBN 4264020492
『聖書の権威』尾山令仁著 羊群社
"Explaining Inerrancy: A Commentary" ロバート・チャールズ・スプロール

関連項目

聖書の無誤性
キリスト教根本主義
マルティン・ルター
カルヴァン
宗教改革
* メソジスト

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