キリスト教根本主義

キリスト教根本主義とは

キリスト教根本主義（クリスチャン・ファンダメンタリズム）は、19世紀から20世紀初頭にかけて、アメリカ合衆国とイギリスのプロテスタント保守派、特に福音主義の中から生まれた運動です。自由主義神学の台頭に対抗し、キリスト教の根本的な信条を強く主張しました。

根本主義の主な特徴

聖書の無謬性: 聖書は神の霊感によって書かれたものであり、誤りがないと信じます。
キリストの神性: イエス・キリストは処女降誕によって生まれ、神そのものであると信じます。
贖罪: キリストの死は、人類の罪を贖うための代償的な犠牲であったと信じます。
復活: キリストは死後、肉体を持って復活したと信じます。
再臨: キリストは再び地上に再臨すると信じます。

当初、根本主義運動は福音主義の内部で協力していましたが、次第にディスペンセーション主義（聖書預言の解釈体系）の影響を強く受けるようになりました。

「ファンダメンタリスト」という言葉

「ファンダメンタリスト」（原理主義者）という言葉は、現在ではしばしば軽蔑的な意味合いで使われ、レッテル貼りの道具となることもあります。かつては運動の指導者自身が使っていた言葉ですが、現在では、根本的な信仰を持つ人々もこの言葉で呼ばれることを拒否する傾向があります。

キリスト教根本主義の歴史

起源

キリスト教根本主義は、18世紀の第一次大覚醒と呼ばれる宗教復興運動にルーツを持ちます。この時期、メソジスト運動がイギリスでキリスト教を刷新し、個人的な回心や敬虔さを重視する流れが生まれました。

19世紀の展開

19世紀には、ドワイト・ライマン・ムーディーやジョン・ネルソン・ダービーなど、福音主義の指導者たちが運動を推進しました。また、聖書の高等批評（聖書の歴史的・文学的な研究）に対抗して、聖書の無謬性を主張する文書シリーズ「ザ・ファンダメンタルズ」が刊行され、この言葉が運動を表す言葉として使われるようになりました。

20世紀以降

20世紀に入ると、根本主義運動は組織化され、神学校が設立されました。しかし、福音派との対立も深まり、新福音主義という新しい潮流が生まれました。また、社会的な問題や政治への関与も強まり、中絶問題などを巡って保守的な立場を取るようになりました。

キリスト教根本主義の教理

根本主義の教理は、以下の5つの基本信条に基づいています。

1. 聖書の無謬性: 聖書のすべての言葉は、神の霊感によって書かれており、誤りがないと信じます。
2. キリストの処女降誕と神性: イエス・キリストは、処女マリアから生まれ、神そのものであると信じます。
3. キリストの代償的贖罪: キリストの十字架の死は、人類の罪を贖うための代償的な犠牲であったと信じます。
4. キリストの肉体的復活: キリストは死後、肉体を持って復活したと信じます。
5. キリストの再臨: キリストは再び地上に再臨し、世界を裁くと信じます。

根本主義者は、聖書高等批評がモーセ五書の著者性を否定することに反対し、モーセがモーセ五書の著者であると主張しました。

根本主義と福音派の対立

根本主義者と福音派は、元々は同じ流れを汲んでいましたが、次第に対立するようになりました。根本主義者は、福音派が他の宗派やグループと協力することに批判的で、福音派の指導者であるビリー・グラハムの活動も拒否する傾向がありました。

根本主義運動の終焉と変容

20世紀の後半になると、根本主義運動は解体し、多くの教派が分裂しました。新福音主義、改革派、ルーテル派など、それぞれ異なるアイデンティティを持つようになりました。現代では、多くの福音派は、狭義の「キリスト教根本主義運動」には属していませんが、広義の歴史的な「根本主義者」と呼べるかもしれません。しかし、聖書の無謬性を信じている点では共通しています。

「ファンダメンタリズム」という言葉の変化

「ファンダメンタリスト」という言葉は、当初は自称でしたが、後に他称や蔑称として使われるようになりました。特にスコープス裁判（1925年）以降、進化論を否定する人々を指す言葉として、否定的な意味合いを帯びるようになりました。さらに、1979年のイラン革命以降、イスラム教に対しても使われるようになり、「原理主義」と訳されることもあります。

日本における根本主義

日本では、植村正久が根本主義の基本信条に反対し、「代償的贖罪」や「聖書の無誤」を批判しました。また、戦時中には、神社参拝を拒否するキリスト教徒を「ファンダメンタリスト」と呼ぶ動きもありました。現在では、キリスト教における「根本主義」という言葉は、イスラム教における「原理主義」と区別して使われることが多くなっています。

アメリカにおける根本主義の歴史

アメリカでは、根本主義はいくつかの段階を経て発展しました。

第1期（1900-1920年）： 神学的根本主義の形成。「ザ・ファンダメンタルズ」の刊行。
第2期（1920-1930年）： 組織化された根本主義の台頭。神学校の設立。
第3期（1930-1945年）： 根本主義の神学体系化。前千年王国説の普及。
第4期（1945-1969年）： 根本主義の分裂と新福音主義の台頭。
第5期（1970-1980年）： 福音主義の社会関与と政治関与の拡大。

創造論

根本主義者は、進化論に反対し、創造論を支持しました。進化論を学校教育から排除しようとする運動も展開されました。

現代における根本主義

現代では、キリスト教根本主義は、以前よりも影響力が低下していますが、依然として社会や政治に影響を与えています。一部の根本主義者は、カトリック教会と協力して、中絶問題などに取り組んでいます。

まとめ

キリスト教根本主義は、20世紀初頭に自由主義神学に対抗して生まれた保守的なプロテスタント運動です。聖書の無謬性やキリストの神性などの基本的な信条を強く主張し、独自の歴史や教理、社会観を発展させてきました。現代のキリスト教にも、その影響は色濃く残っています。

もう一度検索