聖母の結婚 (ペルジーノ)

聖母の結婚

『聖母の結婚』（せいぼのけっこん）は、イタリア盛期ルネサンスの巨匠ピエトロ・ペルジーノが1504年頃に制作した油彩画です。この作品は、外典福音書や『黄金伝説』に記された聖母マリアとナザレの聖ヨセフの結婚を主題としています。元々は、聖母マリアの結婚指輪が納められたペルージャ大聖堂の聖指輪礼拝堂の祭壇画として制作されましたが、現在はフランスのカーン美術館に所蔵されています。

主題

物語は、マリアがエルサレムの神殿で育てられていた頃に遡ります。ある時、大祭司ザカリアのもとに天使が現れ、結婚適齢期の男性たちに杖を持たせて神殿に来るように告げました。神の意志を示す徴が現れた者がマリアの夫となるのです。ナザレのヨセフが杖を持って神殿に入り、祭壇に置くと、彼の杖だけが花を咲かせ、さらに天から鳩が舞い降りて杖にとまるという奇跡が起こりました。これにより、ヨセフがマリアの夫となることが明らかになりました。ヨセフは高齢であり、マリアとの年齢差に戸惑いましたが、周囲の説得を受け入れ、結婚に至ったとされています。

制作経緯

ペルージャ大聖堂の聖指輪礼拝堂には、聖母の結婚指輪とされるものが収められています。この聖遺物は、1473年に修道士ウィンタリオ・ディ・マゴンザがキウージから持ち込んだと伝えられています。当初、祭壇画は1489年にピントゥリッキオに発注されましたが、彼は完成させることができませんでした。そのため、1499年にペルジーノに改めて発注されました。ペルジーノは1500年頃に制作を開始し、1504年頃に完成させました。

作品の特徴

ペルジーノの描く『聖母の結婚』では、年老いたヨセフがマリアの指に結婚指輪をはめる場面が中心に描かれています。大祭司ザカリアは画面中央に立ち、二人の手を取り、結婚を導いています。画面左側にはヨセフを含む求婚者たちが、右側にはマリアを含む女性たちが描かれています。ヨセフの杖だけが開花しているのに対し、他の求婚者たちは若く、悔しさから杖を折る姿が描かれています。

背景には、八角形のエルサレム神殿が描かれており、ペルジーノは、この結婚の場面を線遠近法に基づいた幾何学的シンメトリーの構図の中に配置しています。画面中央下部の大祭司ザカリアの位置は、神殿の開かれた扉が示す縦軸と一致しており、この扉の位置に消失点が存在します。遠景に見えるエルサレム神殿は、新郎新婦に約束された神学的地平を象徴しています。

ラファエロも1504年に、ペルジーノのこの作品に触発され、同様の主題で『聖母の結婚』を描いています。ヴァザーリはラファエロの作品をペルジーノの作品よりも優れていると評価しましたが、美術史家バーナード・ベレンソンは、ペルジーノの作品がラファエロの作品の原型ではなく、ラファエロの模倣であると主張しました。一般的には、この作品はペルジーノの作とされていますが、工房の他の画家、特にロ・スパーニャの関与も指摘されています。

来歴

『聖母の結婚』は、約3世紀にわたりペルージャ大聖堂の聖指輪礼拝堂に飾られていましたが、1798年にナポレオン軍によってフランスに持ち去られました。その後、1804年にカーン美術館に移管され、現在に至っています。ペルージャやアントニオ・カノーヴァによる返還の努力は実らず、1825年にジャン＝バティスト・ウィカルによって複製が制作され、現在も大聖堂の礼拝堂に設置されています。

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