聖母へのキリストの顕現

『聖母へのキリストの顕現』（伊: Apparizione di Cristo alla Madonna）は、イタリア・ルネサンス期の巨匠フィリッピーノ・リッピによって1493年頃に制作された油彩の板絵です。現在、ドイツのミュンヘンにあるアルテ・ピナコテークに所蔵されています。この作品は、リッピがローマのカラファ礼拝堂での仕事を終え、フィレンツェに戻った後に描かれたと考えられています。ルネサンス美術史家ジョルジョ・ヴァザーリが言及した、プラートのサン・フランチェスコ・アル・パルコ教会にあった板絵と同一の作品である可能性が高いとされています。

19世紀には、バイエルン王ルートヴィヒ1世によって収集され、他の王室コレクションの作品と共にアルテ・ピナコテークへと収蔵されました。この絵画は、画面中央に雲の中で金色に輝く円環の中にいる神と、その下にひざまずく聖母マリアを描いています。神の左右には、受胎告知の天使が配されています。この珍しい図像は、おそらく依頼主の特定の要望に応じたものであり、画面左側の丘にある修道院が依頼主を特定する手がかりとなっています。

聖母マリアは、当時のフィレンツェで影響力を持っていたジロラモ・サヴォナローラの説教の影響を受け、老いた姿で劇的な表情を浮かべています。マリアの大きな姿は、この絵画が本来置かれていた場所での特定の崇拝と関連していると考えられます。背景の風景は空気遠近法を用いて描かれており、フィリッピーノの父であるフィリッポ・リッピを含む、初期フランドル派や、フィリッピーノ以前のイタリア人画家の影響が見られます。岩層によって縁取られた川の風景（おそらくフィレンツェ近くのビゼンツィオ）には、数人の僧侶などの小さな人物が描かれています。遠くには霧に包まれた町があり、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に似た大きなドームがあることから、おそらくフィレンツェを描いたものと思われます。

この板絵には、天使と六人の聖人が描かれた「支えられるキリスト」のプレデッラ（裾絵）が付属しています。このプレデッラは、絵画全体の宗教的な意味合いをさらに深めています。

この作品は、フィリッピーノ・リッピの成熟した画風を示すものであり、ルネサンス美術における宗教画の重要な一例として高く評価されています。彼の緻密な描写力と、深遠な宗教的テーマを表現する能力が、この作品を通して明確に示されています。また、絵画に描かれた風景は、当時のフィレンツェの様子を伝える貴重な資料としても注目されています。

もう一度検索