聖母子と二人の天使 (リッピ)

フィリッポ・リッピ『聖母子と二人の天使』：ウフィツィ美術館の至宝

フィリッポ・リッピは、ルネサンス期イタリアを代表する画家のひとりです。彼の作品の中でも特に有名なのが、フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されている『聖母子と二人の天使』（伊: Madonna col Bambino e due angeli, 英: Madonna and Child with two angels）です。テンペラ画で描かれたこの作品は、制作年代は不明ですが、1450年から1465年頃、リッピの晩年に描かれたとされています。

制作の経緯と謎

この絵画の発注者や正確な制作時期は、残念ながら明らかになっていません。一説によると、1457年にジョヴァンニ・デ・メディチがナポリ王への贈り物としてリッピに制作を依頼したものの、資金不足により頓挫したという記録が残されています。しかし、美術史家の中には、リッピがナポリ王との仲介に感謝して、この作品をジョヴァンニに贈ったという説や、リッピがフィレンツェに滞在していた時期に制作されたという説もあります。

もう一つの興味深い解釈として、絵画の珍しいサイズは、リッピの息子フィリッピーノの誕生（1457年）といった個人的な出来事に関連している可能性が指摘されています。前景の天使がフィリッピーノをモデルに描かれたとすれば、制作年は1465年頃まで遅れることになります。

作品の魅力：新たな時代の息吹

『聖母子と二人の天使』は、リッピの初期の聖母画よりも洗練され、当時の流行を反映した作品です。聖母マリアと幼児キリストは、フランドル絵画の影響を受けた風景画が描かれた窓の前に配置されています。聖母マリアは、丘の上の家にある窓辺の椅子に座り、手を合わせて祈りを捧げています。彼女の装いや真珠を使った髪型は、15世紀半ばのフィレンツェの優雅さを体現しています。

この聖母マリアは、リッピが描いた他の聖母像と共通点が見られます。例えば、『ピッティのトンド』と比較すると、こちらの作品の方が成熟した女性像として描かれています。伝統的には、聖母マリアのモデルは、リッピが関係を持っていた修道女のルクレツィア・ブティであると考えられています。

右側の天使は、特に注目に値します。いたずらっぽい笑顔で鑑賞者を見つめるその姿は、天使というよりも、まるで生きた子供のように見えます。

テクニックと影響

この絵画では、聖母マリアの背後に描かれた大きな窓が、鑑賞者との距離感を縮める役割を果たしています。リッピのプラート時代のフレスコ画の経験が、大胆な色彩と、フレスコ画特有の彩色技法に影響を与えていることが見て取れます。絵画の構図はピラミッド型で、前景と背景の配置は、ドナテッロ派からの影響も示唆しています。

マサッチョの影響が見られたリッピの初期の作品とは異なり、『聖母子と二人の天使』では、人物像は柔らかな輝きで照らされ、初期作品に見られた陰影は弱められています。

シンボリズムと解釈

絵画には宗教的なシンボルが数多く隠されています。窓の外に見える岩と海岸は、聖母マリアの称号「海の星と私たちの救いの港」や、預言者ダニエルの物語を暗示していると言われています。

右側の天使は、美術史家の間で様々な解釈がされています。キリストと聖母マリアの結婚を表すもの、あるいは個々の魂と神との関係を表すものなど、多様な見方が存在します。ジョナサン・ジョーンズは、この絵画において、リッピが聖母と幼児キリストの関係を、現実の母子の関係として描いたと主張しています。

経歴と影響

この絵画は、18世紀にはメディチ家の邸宅に所蔵されていたことが記録されています。その後、1796年にフィレンツェのトスカーナ大公国のコレクションとなり、現在ではウフィツィ美術館の重要な収蔵品となっています。

『聖母子と二人の天使』は、アンドレア・デル・ヴェロッキオやサンドロ・ボッティチェリといった後世の画家にも大きな影響を与えました。彼らの作品にも、リッピの絵画の構図や表現手法が受け継がれています。

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