聖母子と天使 (ボッティチェッリ)

『聖母子と天使』は、盛期ルネサンスを代表する画家サンドロ・ボッティチェッリが1465年から1467年にかけて制作した絵画です。油彩とテンペラを用いて描かれたこの作品は、ボッティチェッリの初期の聖母子画として知られ、師であるフィリッポ・リッピの影響が色濃く反映されています。現在はフィレンツェの捨て子養育院美術館に所蔵されており、その美しい描写と歴史的な背景から多くの人々を魅了しています。

作品の特徴

この絵画では、聖母マリアが幼いイエス・キリストを抱きかかえています。幼児キリストは天使によって下から支えられ、聖母を見上げながら、彼女の胸元にあるブローチで戯れています。聖母マリアの眼差しは、幼い息子の運命を深く思索しているように見えます。天使は画面の中で唯一、鑑賞者の方へ視線を向けており、その構図は非常にシンプルでありながらも、見る者に深い印象を与えます。

背景の建築物は、遠近法がわずかに低く設定されており、アーチとイオニア式の柱頭を持つ石柱は、やや不自然な配置となっています。この点が、初期の作品であることを示唆しています。ボッティチェッリの初期の聖母子画の一つとして、本作品は彼とリッピとの密接な芸術的関係を如実に物語っています。

多くの研究者は、この作品だけでなく、ナショナル・ギャラリー・オブ・アートやメトロポリタン美術館に所蔵されている聖母子と天使を描いた作品も、リッピの『聖母子と二人の天使』（ウフィツィ美術館）に影響を受けていると指摘しています。この「聖母と幼児イエス」の図像は、15世紀のフィレンツェで非常に人気があり、個人の礼拝用だけでなく、母性というテーマを表現するものでもあったため、捨て子養育院という場所にも相応しいものでした。

さらに、この作品は、幼児のモデルの写実的な描写によって、神経学的なバビンスキー反射の最も初期の描写の一つである可能性も指摘されています。

帰属と評価

19世紀半ばの捨て子養育院美術館の目録では、この作品はフィリッポ・リッピの作品とされていました。しかし、1893年に美術史家ヘルマン・ウルマンが最初にボッティチェッリの作品であると指摘しました。それ以来、一部の例外を除き、多くの研究者によってボッティチェッリの真筆であることが認められています。

ミクロス・ボスコヴィッツとダミアン・ドンブロウスキーは、この作品をアンドレア・デル・ヴェロッキオの影響を受ける以前の初期の作品として位置づけています。

保存状態

作品の保存状態は、必ずしも良好とは言えません。聖母子の顔は比較的良好な状態を保っていますが、聖母の右手、天使の顔、背景の空、画面左側などに損傷が見られます。1924年から1925年に修復家アウグスト・ファーメレンによって修復されましたが、洗浄が過度だったために、オリジナルの絵具層や人物像の衣服を覆っていた金の帯状装飾が損なわれてしまいました。

関連作品と影響

この作品は、ボッティチェッリがフィリッポ・リッピから受けた影響を示す好例です。リッピの作品に見られる優美な人物描写や構図は、ボッティチェッリの初期の作品にも共通して見られます。この『聖母子と天使』は、ボッティチェッリの初期のスタイルを理解する上で重要な作品であり、彼の後の作品における洗練された表現への橋渡しとなるものです。

まとめ

『聖母子と天使』は、ボッティチェッリの初期の才能を示す貴重な作品です。そのシンプルな構図の中に、深い感情と卓越した技術が込められています。フィレンツェの捨て子養育院美術館で、この作品を鑑賞し、その美しさと歴史的な意義を感じてみてください。

参考文献

バルバラ・ダイムリング『ボッティチェッリ（ニューベーシック・アートシリーズ）』 タッシェン（2001年）
ブルーノ・サンティ『ボッティチェッリ イタリア・ルネサンスの巨匠たち14』関根秀一訳、東京書籍（1994年）
『ウフィツィ美術館展 黄金のルネサンス ボッティチェリからブロンヅィーノまで』小佐野重利編、TBSテレビ（2014年）
Massey, E. W.; Sanders, L. (1 January 1989). “Babinski's Sign in Medieval, Renaissance, and Baroque Art”. Archives of Neurology 46 (1): 85–88. doi:10.1001/archneur.1989.00520370087025.

外部リンク

* 捨て子養育院美術館公式サイト

もう一度検索