聖母戴冠 (ラファエロ)

『聖母戴冠』

『聖母戴冠』（せいぼたいかん、伊: Incoronazione della Vergine、英: Crowning of the Virgin）は、ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンティが1502年から1504年にかけて制作したテンペラ画です。この作品は、ペルージャのサン・フランチェスコ・アル・プラート教会のオッディ家の礼拝堂に設置されていた祭壇画として知られており、同時に「オッディ家の祭壇画」としても親しまれています。現在はヴァチカン美術館に収蔵されています。

制作背景

絵画の発注者については、歴史家ジョルジョ・ヴァザーリがマッダレーナ・デッリ・オッディによるものであると記述していますが、文献によれば実際には彼女の義理の姉妹であるアレッサンドラ・バリオーニが発注したことが確認されています。アレッサンドラは、名門バリオーニ家の出身であり、オッディ家とバリオーニ家は中世から続く宿敵関係にありました。彼らの闘争は1474年に一時的に和解しましたが、1482年以降に再燃し、1488年にはバリオーニ家がオッディ家を追放する事件が起こりました。

この祭壇画は、オッディ家が権力を一時的に取り戻した1503年1月から、再び追放された同年9月までの間に制作されたと考えられています。しかし、1505年の資料によれば、額縁の一部がまだ仕上げの段階であったことが示されており、完全に完成するにはさらに時間が必要だったようです。最後に、オッディ家は教皇ユリウス2世の助けにより、1506年にようやく財産を回復しました。

作品の特徴

ラファエロが描いたこの『聖母戴冠』には、天に昇る聖母マリアが描かれています。映像は雲によって上下に分けられており、上部では聖母がキリストに戴冠されている様子が描かれ、周囲には四人の奏楽天使が彼女を取り囲んでいます。下部では、聖母の遺体が納められていた石棺を大勢の使徒たちが囲んでおり、彼らは空を見上げて聖母の戴冠の様子を見守っています。その中でも聖トマスが聖母から与えられた腰ひもを手に持ち、聖ペテロは天国の鍵を手にしているのがこの絵の重要な要素です。石棺の中には、聖母に代わって咲く百合と薔薇が描かれています。

この作品はラファエロの初期のスタイルにおいて、彼の師であるペルジーノの影響が見られる一方、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品からの影響も認識されています。特に、天国の鍵を持つ聖ペテロの姿は、ダ・ヴィンチの未完成の作品『荒野の聖ヒエロニムス』からインスピレーションを受けたと言われています。また、祭壇画の基台にあたるプレデッラには、『受胎告知』や『東方三博士の礼拝』、『神殿奉献』のエピソードが描かれており、ファーノの教会にあるペルジーノの祭壇画と非常に類似しているため、一部の研究者はこれらもラファエロによるものだと考えています。

来歴

『聖母戴冠』はオッディ家礼拝堂に設置されてから約300年間サン・フランチェスコ・アル・プラート教会にありましたが、1797年にフランスによってパリに持ち去られ、支持体がキャンバスに変更されました。絵画は1815年にナポレオンの失脚後に返還されましたが、当時の教皇ピウス7世は教会に戻すのではなく、新しく作られたヴァチカン美術館へ移すことを決定しました。

また、この作品に関しては多くの素描が残されています。オックスフォードのアシュモリアン美術館には奏楽天使の素描があり、ロンドンの大英博物館には前景の使徒、リール宮殿美術館には中央の聖トマスの素描があります。

結論

『聖母戴冠』は、ラファエロの代表作であり、聖母マリアの戴冠という壮大なテーマを見事に表現した作品として、鑑賞者に深い感動を与えています。その美しさと技巧は時を超えて愛され続け、今でも多くの人々にその魅力を伝えています。

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