聖霊降臨 (オルカーニャ)

『聖霊降臨』

『聖霊降臨』（せいれいこうりん、伊: Pentecoste、英: Pentecost）は、14世紀イタリア・ゴシック期の画家、オルカーニャ（アンドレア・ディ・チオーネ）とヤコポ・ディ・チオーネが共同で制作した三連祭壇画です。1362年から1365年頃にテンペラを用いて板に描かれました。元々はフィレンツェのサンティ・アポストリ教会のために作られましたが、1939年以降はアカデミア美術館に所蔵されています。

この作品は、新約聖書の「使徒行伝」2章1-4節に記述されている「聖霊降臨（ペンテコステ）」の場面を描いたものです。聖霊降臨は、イエス・キリストが昇天した後、弟子たちに聖霊が降った出来事を指します。

作品の帰属

この作品の帰属については、長らく議論がありました。当初、ジョルジョ・ヴァザーリはスピネッロ・アレティーノの作品としていましたが、19世紀にはジョット派の作品とみなされるようになりました。その後、クロウとカヴァルカセッレの研究によって、オルカーニャの作品であるという説が有力になりました。

現在では、オルカーニャとその弟ヤコポ・ディ・チオーネの共同制作であるというのが一般的な見解です。しかし、サンドベルグ・ヴァヴァラはヤコポの単独作品であるとし、オフナーはオルカーニャの弟子の作品であると主張するなど、研究者の間でも意見が分かれています。近年の研究では、オルカーニャの真作であり、彼の代表作の一つであるとされていますが、ヤコポの助力があった可能性も指摘されています。

作品の詳細

聖霊降臨の場面は、「使徒行伝」に次のように記されています。「五旬節の日になって、弟子たちが皆、一緒に集まっていた。すると突然、天から、激しい風が吹いて来るような音がして、彼らが座っていた家全体に響き渡った。そして、炎のような舌が分かれ分かれに現れて、一人一人の上にとどまった。すると、彼らは皆、聖霊に満たされ、御霊が語らせるままに、ほかの国々の言葉で話し始めた。」

この三連祭壇画の中央パネルには、跪いた6人の使徒たちに囲まれた聖母マリアが描かれています。左右の側面パネルには、それぞれ3人ずつの使徒が描かれており、斜めに配置されていることで空間の奥行きが強調されています。各人物の頭上には、聖霊降臨を表す炎が描かれており、中央パネルでは、鳩に姿を変えた聖霊が2人の天使の間を飛んでいます。

この作品には、オルカーニャの特徴である四角く量感のある人物表現、厳格な正面性、抑制された色調が見られます。一方で、一部の使徒に見られる柔らかい色調や丸みを帯びた量感表現は、弟のヤコポの手によるものと考えられています。祭壇画の額縁は元来のものであり、上にあった17世紀の銘文は修復時に除去されました。また、上部にあった尖塔部分は失われたと考えられています。

まとめ

『聖霊降臨』は、14世紀ゴシック美術を代表する作品であり、オルカーニャとヤコポ・ディ・チオーネの才能が結実した傑作と言えるでしょう。聖霊降臨の場面を、独自の構成と色彩で描き出したこの作品は、現在も多くの人々を魅了し続けています。

参考資料

『アカデミア美術館　公認ガイドブック』、ジュンティ・グループ出版社 (フィレンツェ)、1998年　ISBN 88-09-21178-2
藤田慎一郎・神吉敬三『カンヴァス世界の大画家 12 エル・グレコ』、中央公論社、1982年刊行　ISBN 4-12-401902-5
* Arte in Toscanaサイト、オルカーニャとヤコポ・ディ・チオーネ『ペンテコステ』 (イタリア語)

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