オルカーニャ

オルカーニャ、本名アンドレア・ディ・チョーネ・ディ・アルカンジェロは、14世紀のフィレンツェを代表する芸術家で、画家、彫刻家、そして建築家として多岐にわたる才能を発揮しました。1308年頃に生まれ、1368年に亡くなるまで、フィレンツェの美術界に大きな足跡を残しました。彼は、アンドレア・ピサーノや巨匠ジョット・ディ・ボンドーネの弟子として、その芸術的基礎を築きました。

オルカーニャの作品で特に重要なのは、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会ストロッツィ礼拝堂にある『聖母と聖者たちと救世主イエス・キリスト』の祭壇画（1354年 - 1357年）です。この祭壇画は、彼の繊細な筆致と人物描写が見事に表現されており、当時の美術様式を代表する作品として高く評価されています。また、オルサンミケーレ教会のタベルナクル（天蓋付き壁龕）（1359年完成）は、「イタリア・ゴシックのこの種の作品の中では最も完璧な作品」と評され、その建築的な美しさと装飾性の高さで知られています。これらの作品は、オルカーニャの芸術的才能を象徴するものであり、後世の美術家たちに多大な影響を与えました。

また、オルカーニャのフレスコ画『死の勝利』は、音楽家フランツ・リストの協奏曲『死の舞踏』のインスピレーションの源になったと言われています。このフレスコ画は、死の普遍性と人間の運命を描写しており、中世的な死生観を反映した作品として、多くの人々に感銘を与えました。彼の描く人物たちの表情や仕草は、見る者の心に深く訴えかける力を持っており、単なる絵画という枠を超えた、哲学的な思索を促すものとなっています。

オルカーニャの工房からは、多くの弟子たちが育ちました。その中でも特に有名なのは、14世紀のピサの画家、ネッロ・ディ・ヴァンニです。ネッロ・ディ・ヴァンニも、オルカーニャと同様にカンポサント（共同墓地）で仕事をしており、その才能を発揮しました。なお、ネッロ・ディ・ヴァンニは、ベルナルド・ネッロまたはジョヴァンニ・ファルコーネと同一人物であるという説も存在します。

オルカーニャは、1367年にフィレンツェの両替商組合から『聖マタイとその生涯の物語』の制作を依頼されました。この作品は、ウフィツィ美術館に所蔵されていますが、彼は翌年の1368年に亡くなったため、未完のまま残されました。しかし、その構想と一部の描写からは、オルカーニャの晩年の境地を窺い知ることができます。

オルカーニャの生涯と作品は、14世紀のフィレンツェ美術を理解する上で欠かせない要素です。彼の作品は、その後の美術の流れに大きな影響を与え、現在でも多くの人々に感動を与え続けています。

主な作品

サンタ・マリア・ノヴェッラ教会ストロッツィ礼拝堂祭壇画『聖母と聖者たちと救世主イエス・キリスト』
オルサンミケーレ教会タベルナクル
フレスコ画『死の勝利』
『聖マタイとその生涯の物語』(未完)

参考文献

* ルチアーノ・ベルティ、アンナ・マリーア・ペトリオーリ・トファニ、カテリーナ・カネヴァ『ウフィツィ美術館』、みすず書房、1994年　ISBN 4-622-02709-7

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